「起業したいと思っているけど、自己資金がないから融資を受けられるか不安」、「創業者向けの融資には信用保証協会と公庫の2種類があるらしいが、違いがよくわからない」とお困りではありませんか?
ただでさえ敬遠しがちな会社のお金周りのこと、融資の細かい制度要項を見ていてもなかなか意味が理解できませんよね。
このページでは、かつて地方銀行で創業融資の審査を担当した元銀行員が、信用保証協会付きの創業融資の基本から小さなコツまでわかりやすくご案内します。
起業の最初のハードルである資金調達をスムーズに突破して、開業準備に全力を注いでくださいね。
1.創業融資は銀行でも受けられる!信用保証協会の創業融資とは?
創業融資は銀行でも受けることができます。
銀行の中でも特に地方銀行は、地元経済を盛り上げるために地元の中小企業や創業希望者を支援する姿勢を明確に打ち出しています。
ただし、創業融資に積極的な地方銀行であっても、プロパー融資(銀行から直接融資を受ける方法)を創業融資として利用することは難しいです。
創業融資では、銀行と信用保証協会をセットにした信用保証協会付き融資を利用します。
信用保証協会につきましては、次項にてご案内しますね。
信用保証協会は、会社の信用がない創業時でも融資が受けられるようにするための機関
信用保証協会は、中小企業や個人事業者が資金調達するための公的な保証会社です。
47都道府県に1協会ずつあり、そのうち神奈川県には3協会、愛知県と岐阜県には2協会ずつあります。
銀行はお金を貸してくれますが、倒産などの理由で貸したお金が返ってこない場合があります。
こうした場合には、債務者に代わって信用保証協会が銀行にお金を返済するのです。
債務者は融資を受ける際に信用保証協会に保証料を支払い、借入金の保証人になってもらいます。
保証料については、【ポイント②】保証料にて詳しくご案内しますね。
信用保証協会のほかにも「日本政策金融公庫」で創業融資が受けられる
すでにご存知かと思いますが、創業融資を受ける方法は信用保証協会付き融資だけではありません。
日本政策金融公庫を利用する方法があります。
日本政策金融公庫(以下、公庫)とは、政府が出資している公的な金融機関です。
信用保証協会を利用する場合は、銀行を通して融資を受けることに対して、公庫を利用する場合は、公庫から直接融資を受けられます。
2.信用保証協会と公庫の創業融資を徹底比較!7つのポイントで解説!
信用保証協会 | 日本政策金融公庫(公庫) | |
---|---|---|
金利 | 2%弱 | 3%弱 |
保証料 | 1%強 | 不要 |
担保 | 原則不要 | 原則不要 |
保証人 | 必要 | 原則不要 |
自己資金要件 | 1/4程度(なしでも可能な場合がある) | 1/2程度 |
借入上限額 | 1,000万円程度 | 1,000万円程度 |
融資までかかる時間 | 約2ヵ月 | 約1ヵ月 |
信用保証協会と公庫を比較すると、どちらがベストなのかは状況によって異なります。
自己資金はないがどうしても融資を受けたいなら【信用保証協会】を、経営者保証を外したいなら【日本政策金融公庫】を選択してください。
詳しくは、その他の比較ポイントを含めて項目毎にご案内していきますね。
【ポイント①】金利
【ポイント②】保証料
【ポイント③】担保
【ポイント④】保証人
【ポイント⑤】自己資金要件
【ポイント⑥】借入上限額
【ポイント⑦】融資までかかる時間
【ポイント①】金利
信用保証協会と公庫の比較ポイントの1つ目は、金利です。
信用保証協会の金利は2%弱、公庫の金利は3%弱です。
比較してみると、信用保証協会のほうが有利に見えますが、信用保証協会の場合は保証料がかかります。
【ポイント②】保証料
信用保証協会と公庫の比較ポイントの2つ目は、保証料です。
信用保証協会の場合、保証料が1%強かかります。
金利と保証料を合わせて比較すると、信用保証協会がやや高くなるか、同程度になる場合が多いです。
【ポイント③】担保
信用保証協会と公庫の比較ポイントの3つ目は、担保です。
信用保証協会も公庫も原則不要です。
ただし、担保をつければ金利が下がります。
「コストを節約したい」という方は検討してみてくださいね。
【ポイント④】保証人
信用保証協会と公庫の比較ポイントの4つ目は、保証人です。
保証協会は基本的に社長が保証人になるよう求められます。
公庫は原則保証人不要です。
この点が公庫を選ぶ一番のメリットです。
【ポイント⑤】自己資金要件
信用保証協会と公庫の比較ポイントの5つ目は、自己資金要件です。
公庫は必要な総資金額の1/4程度の自己資金が必要です。
それに対して保証協会は1/2程度のため、一見すると公庫の方がイイと思いますよね。
しかし、信用保証協会付き融資では自己資金なしでも融資を受けられる可能性があります。
詳しくは、自己資金がなくても信用保証協会で創業融資を受ける方法でご案内しますので、自己資金がない方や少ない方はしっかりチェックしてくださいね。
【ポイント⑥】借入上限額
信用保証協会と公庫の比較ポイントの6つ目は、借入上限額です。
どちらも1,000万円程度ですので、変わりませんね。
【ポイント⑦】融資までかかる時間
信用保証協会と公庫の比較ポイントの7つ目は、融資までかかる時間です。
公庫は1ヵ月、保証協会は2ヵ月です。
公庫の方が1か月ほど早く融資を受けることができます。
信用保証協会付き融資の場合、信用保証協会と銀行の2か所で審査があるため、時間がかかるのです。
審査期間が長いと「何か不手際があったのではないか」、「融資を受けられないのではないか」と不安になりますよね。
もし不足事項や照会事項があれば、担当者から連絡があります。
何も連絡がないということは審査がスムーズに進んでいるということなので、ご安心ください。
3.自己資金がなくても信用保証協会で創業融資を受ける方法
自己資金なしでも信用保証協会で創業融資を受ける方法があります。
ただし、2つの条件を満たす必要があり、2つのデメリットがありますので、「自己資金がないけど融資を受けたい」とお考えでしたら、きちんと確認してくださいね。
自己資金なしで創業融資を受ける2つの条件
自己資金なしで創業融資を受けるには2つの条件があります。
・【条件②】事業に対する熱い想いとプレゼン能力がある
それぞれ詳しくご案内しますね。
【条件①】実績があり、取引先の見込みがある
自己資金なしで創業融資を受けるための条件の1つ目は、実績と取引先の見込みがあることです。
取引先の見込みは取引先名、取引内容、取引金額で示します。
例えば、
A社 ○○の仕入れ 月間10万円程度
B社 △△の販売 月間30万円程度
…
このように、すでに挙げられる取引先があれば、説得力がかなり増します。
これらは融資を受けるのに大きくプラスに働く内容です。
事業計画書に記載して、面談できちんと説明してください。
【条件②】事業に対する熱い想いとプレゼン能力がある
自己資金なしで創業融資を受けるための条件の2つ目は、事業に対する熱い想いとプレゼン能力があることです。
審査担当者は、話の内容や雰囲気から敏感に熱意の強さを感じ取っています。
担当者と面談する際は、気持ちを盛り上げて臨んでください。
プレゼン能力は、事業計画書を自分の言葉で第三者に伝えられるかということです。
プレゼンは練習すればうまくなります。
「5分間」、「10分間」と設定して、自分で説明する練習を何度もして面談に臨んでください。
担当者は、皆さんの想像以上に経営者の人間性を重視しています。
自己資金なしで創業融資を受ける2つのデメリット
自己資金なしで創業融資を受けるには2つのデメリットがあります。
【デメリット②】融資金額が減額される
それぞれ詳しくご案内しますね。
【デメリット①】金利が高くなる
自己資金なしで創業融資を受けるデメリットの1つ目は、金利が高くなることです。
融資が決まった場合、保証協会は銀行に対して、「金利は○○%以内」という指示を出します。
銀行はこの指示の範囲内であれば自由に金利を決められます。
自己資金がない場合は、指示範囲の上限で設定されるのです。
そのため、自己資金がある場合と比べると1%強~2%は高くなります。
【デメリット②】融資金額が減額される
自己資金なしで創業融資を受けるデメリットの2つ目は、融資金額が減額されることです。
通常だと融資希望金額の1/2は自己資金が必要とされています。
そのため、自己資金なしの場合は融資金額が減額されることが大半です。
JNEXTの創業融資担当「ライター」より一言
ちなみに先ほどご案内したIoTパッケージソフト開発会社の場合は、融資金額の減額はありませんでした。
融資希望金額の300万円が、無駄な経費を最大限に削り算出されたものであることが創業計画書から明確に読み取れたからです。
ただし、これは非常にまれなケース。
事業の将来性と経営者の実力と練り込まれた計画が合わさったからこそ満額で融資を受けられたのです。
自己資金がない場合は、基本的には減額をされるものと考えてください。
4.信用保証協会で創業融資を受けるための5つのSTEP
信用保証協会で創業融資を受けるための流れを5つのSTEPでご案内しますね。
【STEP①】銀行に融資の申し込み
【STEP②】銀行あてに申込書類を提出、面談
【STEP③】保証協会の担当者との面談
【STEP④】契約書の締結
【STEP⑤】融資実行の確認
【STEP①】銀行に融資の申し込み
信用保証協会で創業融資を受けるためのSTEPの1つ目は、銀行に融資の申し込みをします。
創業融資は銀行でも受けられる!信用保証協会の制度融資とは?でもご案内しましたが、地元企業の支援に力を入れている地方銀行がオススメです。
返済口座は今後メイン口座になる可能性が高いので、ずっと取引を続けたいという地域の銀行を選んでください。
銀行によっては創業融資専門の窓口もあるので、まずは電話で相談します。
電話で来店の案内をされるので、指示のあった書類を準備して銀行に訪問してくださいね。
【STEP②】銀行あてに申込書類を提出、面談
信用保証協会で創業融資を受けるためのSTEPの2つ目は、銀行あてに必要書類を提出し、面談します。
銀行としても書類を把握したいので、直接保証協会に提出するように言うことはありません。
申し込み側としては窓口が一本化して助かりますね。
・信用保証委託申込書
・信用保証依頼書
・商業登記簿謄本
・定款
・営業許可証
・事業計画書
・会社の印鑑証明
・会社の印鑑証明
・代表者の本人確認書類
申込書類は法改正のたびに変更になるので、上記の書類を基本に、不要なものや追加になるものもあります。
詳しくは担当者が教えてくれますので、心配しなくて大丈夫です。
書類提出のタイミングで銀行担当者と面談をします。
この面談では、経営者のプロフィール、事業内容、今後の見通しなどを聞かれます。
上記3点については最低限説明できるようにして訪問してくださいね。
銀行担当者に「この人にならお金を貸したい」と思わせれば成功です。
【STEP③】保証協会の担当者との面談
信用保証協会で創業融資を受けるためのSTEPの3つ目は、保証協会の担当者との面談です。
保証協会との面談に必要以上に身構えてしまう方がいます。
保証協会の担当者は、何よりもあなたがどんな人なのかを知りたいと思っています。
自分がお金を貸すとして、見も知りもしない相手に書面上の契約だけで貸すのは嫌ですよね。
直接経営者と会って問題のない人物か、提出書類に記載されている内容に嘘はないかを見極めたいと思っているのです。
聞かれる内容は、これまでの経歴、事業立ち上げの経緯、事業内容、収益の柱などごく一般的な内容です。
少なくとも上記の内容はすらすら言えるように練習して、緊張しないよう万全の準備をして臨んでください。
【STEP④】契約書の締結
信用保証協会で創業融資を受けるためのSTEPの4つ目は、契約書の締結です。
ここまでこぎつければあとはただの事務手続きです。
保証協会の承認が下りると、銀行から契約の案内が来ます。
銀行によって電話、郵送、メールと連絡方法は異なりますが、案内と同時に契約時の持ち物が案内されます。
代表者の本人確認書類、代表者の実印、会社の実印、会社の銀行印、通帳が基本的に必要なもので、その他必要なものがあれば担当者から案内があります。
・代表者の本人確認書類
・代表者の実印
・会社の実印
・会社の銀行印
・通帳
【STEP⑤】融資実行の確認
信用保証協会で創業融資を受けるためのSTEPの5つ目は、融資実行の確認です。
金融機関ごとに異なりますが、STEP4(契約書締結)から、3日程度です。
融資を申し込んだ金融機関の口座に入金がされます。
通帳を記帳して融資が実行されたことを確認してください。
融資実行から約1週間後に、返済予定表が郵送されてきます。
返済予定表とは最終返済日までの毎月の引き落とし日と、返済金額が一覧で記載されている予定表のことです。
5.信用保証協会で創業融資を受けるための4つの審査基準
融資の可否は複合的な要素で決まるので、これさえ満たしていれば合格という基準はありません。
ただし、どの金融機関でも必ず重視するポイントが4つあります。
これらは最低限クリアできるようチェックしてください。
【審査基準①】資金計画が無理のないものになっているか
信用保証協会で創業融資を受けるための審査基準の1つ目は、資金計画が無理のないものになっているかです。
“資金計画が無理のないもの”とは、売上目標が同規模の企業や周辺立地の企業と比較して設定されているかどうかです。
見栄を張らず、保守的な目標を設定することが大事です。
売上を保守的にしたら赤字になってしまう場合は、削れるコストがないか徹底的に探します。
据置期間が終了するまでに黒字になる計画であればOKです。
【審査基準②】経営者の経歴と事業内容が一致しているか
信用保証協会で創業融資を受けるための審査基準の2つ目は、経営者の経歴と事業内容が一致しているかです。
創業直後は収益の基盤が弱いので、経営者個人の実力や頑張りで業績が左右されます。
事業内容に関連することで実績を挙げていれば強みになりますし、これまでの経験と創業に至った経緯が結びついていれば事業に対する納得性が高まるのです。
経歴と事業内容をつなげることができれば、担当者との信頼関係がぐっと深まります。
【審査基準③】事業計画書が作り込まれているか
信用保証協会で創業融資を受けるための審査基準の3つ目は、事業計画書が作り込まれているかです。
事業計画書の質はかけた手間に比例します。
簡単に作ることはできますが、適当な事業計画書だとプレゼンをする際に自信のなさを露呈してしまいます。
作ってみたら、友人や協力者、それ以外の人にも見せて意見をもらいましょう。
また、プロに相談するのも手です。
税理士や行政書士は中小企業の支援に精通しているので、有益なアドバイスをしてもらえます。
【審査基準④】経営者の個人信用情報がブラックリストに入っていないこと
信用保証協会で創業融資を受けるための審査基準の4つ目は、経営者の個人信用情報がブラックリストに入っていないことです。
個人信用情報とは、これまでのクレジットカードや個人ローンを延滞したり自己破産していたりすると記録される情報です。
個人信用情報は、信用保証協会ではチェックされませんが、金融機関には必ずチェックされます。
そのため、過去に自己破産をしたり、返済が滞っていたりすると、融資を断られてしまいます。
JNEXTの創業融資担当「ライター」より一言
個人信用情報について、信用保証協会ではチェックされないとご案内しましたが、正確には把握することができません。
なぜなら、申し込み時に記入する書類に個人信用情報に関する規約は入っていないためです。
個人信用情報は本人の承諾がないと信用保証協会であっても勝手に取得することはできないのです。
6.信用保証協会の創業融資の審査をクリアできる創業計画書の3つのコツ
信用保証協会の創業融資の審査をクリアできる創業計画書のコツを3つご案内しますね。
【創業計画書のコツ②】現実味のある計画になっているか
【創業計画書のコツ③】創業計画書を他人に説明できるか
【創業計画書のコツ①】事業プランが数字に落とし込めているか
信用保証協会の創業融資の審査をクリアできる創業計画書のコツ1つ目は、事業プランが数字に落とし込めているかです。
「数値の上でもこの事業は継続性があります」と伝わるようにしてください。
客単価×客数=売上をベースに売上計画を立てます。
また、必要経費はきちんと内訳を記入します。
仕入代金、家賃、人件費、光熱費、保険料など細かければ細かいほど良いです。
売上から経費を引いて黒字になる計画を立ててください。
【創業計画書のコツ②】現実味のある計画になっているか
信用保証協会の創業融資の審査をクリアできる創業計画書のコツ2つ目は、現実味のある計画になっているかです。
計画書に記入した数字には必ず根拠が必要です。
例えば、月間売上を記入する際に、「自分の経験からするとこれくらい」では根拠になりません。
同じ規模のお店や周辺店舗の状況を調査し、実態に即した計画にする必要があります。
この際、第三者に書類をチェックしてもらうのが有効です。
チェックしてもらうのは友人でもいいですが、率直な意見をもらいづらいです。
それでしたら経営サポートを行っている専門家(税理士、行政書士)であれば、計画書の作成のサポートをしてもらえますし、長期的な会社のサポートをお願いすることができます。
【創業計画書のコツ③】創業計画書を他人に説明できるか
信用保証協会の創業融資の審査をクリアできる創業計画書のコツ3つ目は、創業計画書を他人に説明できるかです。
創業計画書を作成しただけでは意味がありません。
自分の言葉で伝えて、相手の理解を得ることが重要です。
まずは声に出して練習してみてください。
この時に相手がいると不自然な部分に気づいてもらえる可能性があります。
もし説明が滞る部分があったら計画書を見直すべきです。
滞る=自信がないところは、なくしておいてくださいね。
JNEXTの創業融資担当「ライター」より一言
かつて私が融資担当をしていた時代に「自己資金はないが、自己資金を貯める時間に商機を逃すのが惜しい!今すぐ開業したい!」と相談にきたIoTパッケージソフト開発会社がありました。
IoTは新しい技術で、開業のタイミングが重要なのは言うまでもありません。
合理性があると判断した私は、経営者の経歴と実績、見込み取引先について尋ねました。
大手IT企業で製造業向けの業務改善ソフトを長年開発し、その時代の取引先にも導入の話はついているとのこと。
ソフトの試作品は完成しており、借入希望金額が少額(300万円)であったので、無理のない事業計画書を作ることができました。
また、彼の素晴らしかったところは、熱い思いをきちんと資料に落とし込んで金融機関担当者にプレゼンすることができた点です。
融資担当者は経営者の人間性を見ていますので、「彼なら大丈夫だろう」と思わせることができた好例でした。