経理が属人化する原因と会社が取るべき改善策

経理が属人化する原因と、会社が取るべき改善策
この記事の監修者

円能寺修二
株式会社JNEXTコンサルティング DX推進担当

DX推進担当。中小企業向けの業務DXやシステム導入支援を中心に、業務設計からツール選定、システム開発、運用定着まで一貫してサポート。現場課題に寄り添った実装力を強みとし、会計・バックオフィス領域を中心に業務効率化を支援している。

「経理担当の○○さんがいないと、何もわからない」
「あの人が辞めたら会社の経理が止まってしまう」

こうした不安を抱えながら経営を続けている会社は、中小企業を中心に非常に多く存在します。
経理業務の属人化は、日常業務が回っている間は表面化しにくいため、長年にわたって見過ごされてきたケースも少なくありません。
しかし、担当者の急な退職・病気・育児休業といった出来事が起きた瞬間に、その深刻さが一気に露呈します。

本記事では、経理が属人化する根本的な原因と、会社が今すぐ取り組める改善策を専門家の視点からわかりやすく解説します。
「うちの経理、少し属人化しているかも」と感じている経営者の方にも、ぜひ参考にしていただける内容です。

目次

経理の属人化とは何か|なぜ今すぐ見直す必要があるのか

経理の属人化は、気づいたときには深刻な状態になっていることが多い問題です。
まずは基本的な意味と、放置した場合のリスクを整理しておきましょう。

「経理の属人化」とはどういう状態か、基本を整理する

経理の属人化とは、経理業務の知識・手順・判断基準が特定の担当者だけに集中しており、その人がいなければ業務が回らない状態のことです。

たとえば、以下のような状況が当てはまります。

  • 仕訳の判断基準や勘定科目の使い分けが、担当者の頭の中にしか存在しない
  • 月次決算や請求書処理の手順がマニュアル化されておらず、引き継ぎができない
  • 会計ソフトのIDやパスワード、操作方法を担当者しか知らない
  • 「この処理はいつもあの人に聞けばわかる」という状態が常態化している

こうした状態は、担当者が毎日出勤して業務をこなしている間は問題が表面化しないため、「困っていないからいい」と後回しにされがちです。
しかし、経理の属人化は会社にとって深刻な経営リスクをはらんでいます。

属人化が続くと会社経営にどんなリスクが生じるか

経理の属人化が放置されると、会社にはさまざまなリスクが生じます。
その代表的なものを整理します。

業務停止リスク

担当者が急病・事故・退職などで突然不在になった場合、経理業務が完全に止まります
請求書の発行が止まれば売上入金が遅れ、支払い処理が止まれば取引先との関係に支障が出ます。
小規模な会社ほど、この影響は深刻です。

ミス・不正リスク

業務が1人に集中し、チェックする人がいない状態は、ミスが発見されにくい環境を生み出します。
また、意図しない経理処理の誤りだけでなく、内部不正が起きても気づかれにくいという問題もあります。
複数人でチェックする体制がない場合、こうしたリスクは構造的に高まります。

経営判断の遅れ

担当者に業務が集中していると、月次決算や試算表の作成が遅れがちになります。
経営者が必要なタイミングで財務情報を得られなければ、適切な経営判断を下すことができません。

採用・育成の硬直化

担当者が「自分しかできない」という状況に慣れてしまうと、後継者の育成が進まなくなります
また、その担当者自身も業務の属人化によってキャリアアップや休暇取得が難しくなるという問題も生じます。

属人化が進みやすい会社に共通している3つの特徴

経理の属人化が深刻化しやすい会社には、次の3つの共通した特徴があります。

① 経理担当者が長年1人で業務を担っていること

「ベテランの経理担当者が20年以上1人で全業務を担当している」というケースは、中小企業に非常に多く見られます。
長年にわたって1人で業務を回してきた結果、マニュアルも引き継ぎ資料もない状態が当たり前になってしまっています。

② 経営者が経理業務の中身をほとんど把握していないこと

「経理はあの人に任せているから大丈夫」という状態が長く続くと、経営者自身も経理業務の実態を把握できなくなります
これは、不正やミスの発見が遅れるだけでなく、改善の必要性を認識すること自体が難しくなるという悪循環を生みます。

③ 業務の「見える化」をしないまま組織が大きくなってきたこと

創業期は少人数で業務を回すために属人的な運用が避けられない面もありますが、会社が成長するにつれて業務を標準化・組織化していくことが求められます
この転換が遅れた会社では、属人化が慢性化しています。

経理が属人化する原因と、改善に向けた具体的な対策

属人化にはいくつかの共通した原因があります。
ここでは主な原因と、すぐに取り組める改善策を整理します。

原因①:マニュアルがなく「口頭・記憶」で業務が回っている

経理の属人化が進む最も根本的な原因が、業務マニュアルが存在しないことです。

以下のような状況は、多くの中小企業で見られます。

・「前任者から口頭で教えてもらった」
・「長年やっているから自然に覚えた」
・仕訳の判断基準・月次決算の手順・各種申告書の作成方法が、すべて担当者の記憶の中にある

たとえば、「この取引先への支払いは毎月25日締めで翌月末払いだが、特定の月だけ対応が異なる」といった細かいルールや慣習は、長年担当している人でなければ把握できません。
こうした「暗黙知」が積み重なることで、他の人では対応できない業務が増えていきます。

改善策として最も基本的かつ効果的なのが、業務マニュアルの作成です。
完璧なものを目指す必要はなく、まずは「誰が・いつ・何を・どのように行うか」を箇条書きでまとめたチェックリスト形式から始めましょう。

特に以下の業務から1枚ずつ整理していくことをおすすめします。

・月次決算の作業手順
・経費精算の処理フロー
・支払い処理の手順

はじめは簡単なもので構いません。
1業務1枚のチェックリストを積み重ねることが、属人化解消への着実な第一歩になります。

原因②:担当者しかアクセスできないデータ管理になっている

属人化のもうひとつの大きな原因が、データへのアクセスが特定の担当者に限定されていることです。
たとえば、以下のような状況が当てはまります。

・ソフトのログイン情報を担当者しか知らない
・重要な書類がその人のデスクや個人フォルダにしか保管されていない
・銀行口座のネットバンキングIDを1人だけが管理している

こうした状況は、担当者が不在になった瞬間に会社の経理機能を完全に止めてしまいます。

デジタルデータだけでなく、紙の書類についても同様のリスクがあります。
契約書・請求書・領収書などの重要書類が適切に整理・保管されておらず、担当者しか在り処を知らないというケースも少なくありません。

改善策としては、まず以下の2点から取り組むことをおすすめします。

・会計ソフトやネットバンキングの権限管理を見直し、複数人がアクセスできる体制を整える
・重要書類の保管場所とファイリングルールを統一し、誰でも必要な書類を探せる状態をつくる

ただし、アクセス権限を広げる際はセキュリティと内部統制の観点から、誰がどの範囲にアクセスできるかを明確に定めたうえで運用することが大切です。
「共有する」と「管理する」をセットで考えることが、安全な属人化解消につながります。

原因③:業務量・難易度に対して人員が慢性的に不足している

経理の属人化が解消されない背景には、業務量と人員のアンバランスという構造的な問題があることも多いです。

中小企業では、経理担当者を1名しか配置できないケースが多く、その1名が以下のような業務を1人でこなしています。

・請求書処理・経費精算
・給与計算・年末調整
・税務申告・月次決算
・資金繰り管理

本来複数人で分担すべき業務が1人に集中している状態では、マニュアルを作る時間的・精神的余裕もなく、「とにかく回すだけで精一杯」という状況に陥りがちです。

さらに、インボイス制度・電子帳簿保存法・消費税の課税区分判断など、年々複雑化する法令への対応が加わることで、1人の担当者への負担はさらに増しています。

この問題への対応策としては、業務の一部を外部に委託するアウトソーシングの活用が有効です。
以下のような定型業務を外部に委託することで、社内担当者の業務負荷を適正化できます。

・記帳代行
・給与計算
・年末調整

その結果、マニュアル整備や業務改善に充てる時間が生まれ、属人化解消への取り組みを前進させることができます。

対策の第一歩|「どの業務が・誰に・どれだけ集中しているか」を見える化する

経理の属人化解消に取り組む際、最初に行うべきことは現状の業務の見える化です。
問題の所在を把握しないまま対策を講じても、効果が出にくいためです。

具体的には、経理担当者に現在担っている業務を以下の観点でリストアップしてもらいます。

  • 業務名:何をしているか(例:仕訳入力・月次決算・請求書発行・給与計算など)
  • 発生頻度:日次・週次・月次・年次のいずれか
  • 所要時間:1回あたりの作業時間の目安
  • 対応可能者:現在その業務をできる人が何人いるか
  • マニュアルの有無:手順書・チェックリストが存在するか

このリストを作成するだけで、どの業務が特定の担当者に集中しているか、どの業務がマニュアル化されていないかが一目で把握できます。
多くの場合、業務の7〜8割が1名に集中しており、マニュアルが存在する業務が全体の2割以下であることに気づかされます。

見える化が完了したら、次はリスクの高い業務から優先的に対応を進めましょう。
特に以下の条件に当てはまる業務は、早急にマニュアル化・引き継ぎ対応を進めることをおすすめします。

・担当者しかできない業務
・マニュアルが存在しない業務

すべてを一度に解決しようとせず、優先順位をつけて一つひとつ対応していくことが、属人化解消への近道です。

属人化解消を進めるうえで見落としがちな注意点(引き継ぎ要件の整備を含む)

経理の属人化解消を進める際に、現場でよく見られる落とし穴があります。

マニュアル作成を担当者1人に任せきりにしてしまうケース

属人化解消のためのマニュアル作成を現担当者だけに押しつけると、通常業務との両立が難しく、なかなか完成しないという状況が続きます。
経営者または管理職が主導して、優先順位をつけながら段階的に整備していく体制を整えることが重要です。

引き継ぎ要件の整備が不十分なケース

マニュアルを作成しただけでは、実際に他の人が業務をこなせるようになるには時間がかかります。
「いつまでに・誰が・どの業務を引き継げる状態にするか」という具体的な引き継ぎ計画を立て、OJT(実務を通じた教育)を含めた実践的な引き継ぎプロセスを設計することが必要です。

会計ソフト・クラウドツールの活用見直しも属人化解消の大きな鍵

システムの活用が不十分なまま手作業や口頭確認に頼っている業務は、ツールの設定を見直すだけで大幅に効率化・標準化できるケースがあります。
現行ツールの機能を改めて確認し、使いこなせていない機能がないかを棚卸しすることをおすすめします。

専門家への相談を検討すべきタイミングと活用法

属人化の解消は自社内で取り組める部分もありますが、状況によっては専門家のサポートを活用したほうが確実です。
ここでは、相談を検討すべき基準と、専門家に依頼することで変わることを整理します。

専門家への相談を検討すべきケース

経理の属人化解消は、経営者の意識が変われば自社内で取り組める部分もあります。
しかし、以下のような状況に当てはまる場合は、専門家への相談を早めに検討することをおすすめします。

  • 経理担当者が近く退職・異動する予定があり、引き継ぎに不安がある
  • 長年1名で業務を担ってきた担当者が、自分の業務をうまく言語化できていない
  • マニュアル作成を試みたが、作業が止まったまま進んでいない
  • 業務量が多すぎて担当者がマニュアル整備に時間を割けない状況が続いている
  • 会計ソフトや業務ツールの活用が不十分で、どう改善すればよいかわからない
  • 経理の内部体制を整えたうえで、外部委託(アウトソーシング)も検討したい

特に、担当者の退職が近づいているケースは緊急度が高く、準備期間が短いほど対応コストが膨らみます。
「まだ大丈夫」と先送りせず、早めに動き始めることを強くおすすめします。

専門家・外部サポートに依頼すると何がどう変わるか(支援範囲の要件整理)

専門家や外部サポートに相談・依頼することで、属人化解消のプロセスは次のように変わります。

業務の棚卸しと優先順位付けをサポートしてもらえる
現状の業務フローを客観的に整理し、「どの業務がリスクが高いか」「どの順番で対応すべきか」を明確にしてもらえます。
社内では気づきにくい非効率や属人化の構造的な問題を、第三者の視点で指摘してもらえる点が大きなメリットです。

マニュアル・引き継ぎ資料の作成を支援してもらえる
業務フローの文書化・チェックリストの整備・引き継ぎ計画の策定まで、専門家が伴走しながら進めてくれます。
現担当者の負担を最小化しながら、確実に標準化を進めることができます。

会計ツールの最適化・クラウド移行をサポートしてもらえる
現在の会計ソフトや業務ツールの活用状況を見直し、クラウド化や自動化によって属人化しにくい業務環境を構築する支援を受けることができます。

外部委託(記帳代行・給与計算など)の活用提案も受けられる
内部の体制整備と並行して、外部委託を組み合わせることで、属人化リスクを最小化しながら業務効率を高める最適な体制を設計してもらえます

相談先を選ぶ際に確認しておきたい3つのポイント

属人化解消の支援を依頼する専門家や相談先を選ぶ際には、以下の3点を確認することをおすすめします。

① 経理業務の実務支援経験があるかどうか

属人化解消は、税務・会計の専門知識だけでなく、業務フローの設計や組織改善の経験が求められます。
「経理の現場を知っている専門家」かどうかを、過去の支援実績や担当者の経歴から確認することが重要です。

② マニュアル整備・引き継ぎ支援まで一貫して対応できるかどうか

現状分析だけで終わり、具体的な資料作成や実行支援まで対応してもらえない場合は、経営者と担当者の負担が残ったままになります。
計画の立案から実行・定着まで伴走してもらえる支援体制を確認しましょう。

③ アウトソーシングや会計DXとの組み合わせ提案ができるかどうか

属人化解消は、内部体制の整備だけでなく、外部委託やツール活用との組み合わせによってより効果的に実現できます。
税務・労務・システム・業務改善を横断的にサポートできる専門家であれば、場当たり的な対策ではなく、会社の成長を見据えた総合的な体制設計を期待できます。

まとめ|経理の属人化解消は「見える化」から始める

経理の属人化は、放置すればするほど解消が難しくなる経営リスクです。
特に以下の3点を意識しながら、早めに取り組むことが大切です。

現状の業務を見える化し、どの業務が誰に集中しているかを把握する
リスクの高い業務からマニュアル化・引き継ぎ対応を優先的に進める
人員不足の解消には、外部委託やクラウドツールの活用も組み合わせる

自社だけでの改善が難しい場合は、専門家のサポートを活用することで、より確実に属人化解消を進めることができます。

経理の属人化について、現状を専門家の視点で整理したい方や、具体的な改善策を一緒に考えたい方は、ぜひ JNEXTグループ へのご相談をご検討ください

会計・経理DXからバックオフィス全体の業務改善まで、貴社の状況に合わせた実践的なサポートを提供しています。

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この記事を書いた人

JNEXTグループ編集部は、税務・会計・労務・DXなどの複雑な情報を、初めての方にも分かりやすく届けることを目的に活動しています。税理士、社会保障監修のもと、正確で実務に役立つ内容を丁寧に解説し、読者の不安を少しでも減らせる記事づくりを心がけています。

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