
荻野岳雄
税理士法人JNEXT 代表社員
税理士/国税局OB。税理士法人JNEXT代表として中小企業の税務・経営支援に従事。DXを軸にした経営改善や税務戦略を得意とし、実務に基づく発信をYouTubeなどでも行っている。
「月次決算がなかなか締まらない」
「毎月10日を過ぎてもまだ先月の数字が出ない」
そんな悩みを抱える経営者の方は、決して少なくありません。
月次決算の遅れは、単なる経理部門の作業上の問題ではなく、経営判断のスピードや資金繰りの精度にも直結する、会社全体の重要課題です。
本記事では、月次決算が遅くなる根本的な原因を整理したうえで、早期化に向けた具体的な改善ステップをわかりやすく解説します。
経理の専門知識がない経営者の方でも実践に活かせる内容を心がけていますので、ぜひ最後までお読みください。
月次決算の早期化とは何か、なぜ今必要なのか
月次決算の早期化を進めるうえで、まず押さえておきたいのが基本的な意味と目的です。
言葉の定義を正しく理解することで、なぜ早期化が必要なのかが明確になります。
ここでは、「月次決算」と「早期化」の意味を整理していきましょう。
「月次決算」と「早期化」の意味をおさらい
月次決算とは、毎月末を基準日として、その月の売上・費用・利益などの財務状況を集計・確定させる作業のことです。
年に一度の法定決算(年次決算)とは異なり、月次決算は法律上の義務ではありませんが、経営管理の観点から多くの企業で実施されています。
早期化とは、この月次決算をできるだけ速いタイミングで締めることを指します。
一般的に、翌月の第3〜5営業日以内に締められる状態を「早期化が実現できている」と表現します。上場企業では翌月3営業日以内を目標とするケースも珍しくありません。
一方、中小企業の現場では月末から10日〜15日以上かかるケースも多く、経営の「見えない損失」につながっています。
まずはこの認識を持つことが、改善への第一歩となります。
決算締めが遅いと経営判断にどんな影響が出るか
月次決算が遅れると、先月の実績を把握するタイミングも遅れてしまいます。
たとえば、毎月20日になってようやく先月分の数字が出る場合、意思決定ができる頃には、すでに今月が半分以上過ぎている状態です。
具体的には、以下のような問題が発生しやすくなります。
- 資金繰りの悪化を早期にキャッチできず、手元資金が不足する事態に気づくのが遅れる
- 売上や原価の異常値(突発的な費用増加など)の発見が遅れ、損失が拡大する
- 金融機関への試算表提出が遅れ、融資審査や信用力の維持に影響が出る
- 予算と実績のズレを早期に把握できず、経営改善のタイミングを逃す
経営の羅針盤となるべき数字が「古い情報」になってしまう。
これが月次決算の遅れがもたらす最大のリスクです。
数字の鮮度が落ちれば、経営判断の質も必然的に下がります。
早期化できている会社・できていない会社の差はどこにあるか
月次決算を翌月5営業日以内に締めている会社と、15日以上かかっている会社では、何が違うのでしょうか。
早期化できている会社には、次の3つの共通点があります。
経理フローが見える化・標準化されているこ
誰が担当しても同じ手順で作業が進むよう、業務マニュアルやチェックリストが整備されています。
データの収集・入力が月末直後に完了する仕組みがあること
請求書や領収書のデータが自動連携される環境が整っており、各部門からの報告も期日通りに上がってくるルールが機能しています。
会計システムが業務の実態に合った形で運用されていることです。
ソフトウェアの機能をフル活用し、手入力の工程が最小化されています。
一方、早期化できていない会社では、これらのいずれか、あるいは複数が機能していない状態にあります。
次のセクションで、その原因を1つずつ掘り下げていきます。
月次決算が遅くなる原因と、改善に向けた具体的な対策
月次決算が遅れる背景には、いくつかの共通した原因があります。
原因を正しく把握しないままでは、改善に取り組んでも十分な効果は得られません。
ここでは、月次決算が遅くなる主な原因と、それぞれの具体的な対策について整理していきます。
原因①:データ収集・入力のタイムラグが積み重なっている
月次決算が遅れる大きな原因のひとつが、データの収集・入力に時間がかかることです。
たとえば、現場では次のようなケースがよく見られます。
よくある遅れの原因
・月末を過ぎても請求書が届かない取引先がある
・各部門の経費申請が月をまたいで提出される
・銀行明細の照合を手作業で行っている
これらが重なると、必要なデータをそろえるだけで数日〜1週間以上かかることもあります。
特に、インターネットバンキングのデータを手入力で会計ソフトへ転記している場合、月初の作業だけで丸1日以上かかるケースも珍しくありません。
改善のポイント
・銀行口座や電子マネーと会計ソフトをAPI連携する
・自動仕訳機能を活用して手入力を減らす
・経費申請の締め日を月末より前倒しする
データを自動で取り込める仕組みを整えるだけでも、月初の作業負担は大きく軽減できます。
原因②:担当者しか知らない属人的な経理フローになっている
「経理は○○さんしかわからない」という状態が続いている会社では、その担当者が病気や退職した瞬間に、月次決算が完全に止まるリスクがあります。
属人化が進むと、次のような問題が生まれます。
属人化によって起こる問題
- 仕訳の判断基準が担当者の頭の中にしか存在しない
- どの書類が届いていてどれが未着かを把握しているのが1人だけ
- 月次チェックのタイミングや優先順位が明文化されていない
このような状態では、担当者が不在になっただけで業務が滞ってしまう可能性があります。
そのため、誰でも同じように作業できる仕組みを整えることが大切です。
改善のポイント
・業務フローを見える化し、作業の全体像を共有する
・月次決算のチェックリストを作成する
・「誰が・何を・いつまでに・どのように」行うかを明文化する
特に小規模な会社では、担当者が1人であっても、その作業内容を文書化しておくことで、緊急時のリスクを大きく減らすことができます。
原因③:会計ソフト・システムが現場の実態に合っていない
「会計ソフトは導入しているものの、実際には手入力やExcelで補っている」
このような状態になっている会社は少なくありません。
これは、会計システムが現場の業務フローや取引内容に合っていないことが主な原因です。
よくある課題
・会計ソフトだけでは対応できず、Excelで別途管理している
・工事や案件ごとの原価管理がシステムで完結しない
・データが分散し、二重管理になっている
このような状態では、データの統合に手間がかかり、月次決算の遅れにつながります。
また、インボイス制度や電子帳簿保存法への対応が不十分な場合、証憑の管理や照合に余分な時間がかかることもあります。
2024年1月以降は電子データの保存が原則となっており、対応が遅れている場合は、業務負担がさらに増える可能性があります。
改善のポイント
・業務フローを見直し、現場に合った運用にする
・会計システムの設定を最適化する
・必要に応じてソフトの見直し・乗り換えを検討する
現場に合った仕組みを整えることで、無駄な手作業や二重管理を減らし、月次決算のスピードと精度を同時に高められます。
今回の改善ポイント
月次決算の早期化を実現するためには、原因を把握したうえで適切な対策を講じることが重要です。
ここから具体的な改善方法を解説します。
対策の第一歩|「どこで時間がかかっているか」を見える化する
月次決算の早期化に取り組むうえで、まず行うべきなのが「どの工程にどれだけ時間がかかっているか」を把握することです。
問題の所在が曖昧なままでは、改善策を講じても十分な効果は得られません。
主な作業工程
・各部門からのデータ収集(請求書・領収書・経費申請など)
・銀行明細・クレジット明細の照合
・仕訳入力・データ取り込み
・各勘定科目の残高確認・照合
・試算表の作成・レビュー
・経営者への報告
これらの工程を1〜2ヶ月ほど計測することで、どこがボトルネックになっているかが明確になります。
多くの場合、時間の大半は「データ収集」または「照合・確認」に集中しています。
ボトルネックが特定できれば、そこに絞って改善を進めることで、短期間でも効果を実感しやすくなります。
まずは「計測」から始めることが、確実な改善の第一歩です。
早期化を進めるうえで見落としがちな注意点
月次決算の早期化を進める際には、いくつか注意すべきポイントがあります。
よくある注意点
・スピードを優先しすぎて、正確性がおろそかになる
・経理部門だけで改善を進めてしまう
・システム導入後の運用や教育が不十分になる
月次決算の目的は、正確な経営数値を迅速に把握することです。
スピードだけを重視すると、誤った数字をもとに判断してしまうリスクがあります。
また、月次決算の遅れは他部門の動きにも影響されるため、全社的な取り組みが不可欠です。
さらに、システム導入や変更の際は、現場への十分なトレーニングと移行期間の確保も重要です。
無理のないスケジュールで進めることで、スムーズな定着につながります。
専門家への相談を検討すべきタイミングと選び方
月次決算の早期化は、自社内で改善できる部分も多い一方で、すべてを自力で進めるのが難しいケースも少なくありません。
無理に抱え込んでしまうと、改善が進まないだけでなく、かえって業務負担が増えてしまう可能性もあります。
ここでは、専門家への相談を検討すべきタイミングや判断基準について解説します。
専門家への相談を検討すべきタイミングとは
月次決算の早期化は、自社内で改善できる部分も多い一方で、状況によっては外部の専門家に相談したほうが効率的なケースもあります。
特に、次のような状況に当てはまる場合は、早めの相談を検討するとよいでしょう。
相談を検討すべき主なケース
・経理担当者が1名で、業務が属人化している
・過去に改善を試みたが、定着せず元に戻ってしまった
・会計ソフトの活用方法が分からず、手作業が多い
・インボイス制度・電子帳簿保存法への対応が不十分
・試算表を経営判断に活かせていない
・担当者の退職や異動が予定されており、引き継ぎに不安がある
特に、経理担当者が1名の「ひとり経理」の状態は、月次決算の早期化を妨げる大きな要因です。
人員の増員が難しい場合でも、外部サポートを活用することで、現実的かつ継続的な改善につなげることができます。
専門家に依頼すると何が変わる?得られる4つの効果
専門家や外部サポートに相談・依頼することで、月次決算の早期化に向けた取り組みを効率的に進めることができます。
具体的には、次のような変化が期待できます。
専門家に依頼することで得られる効果
①現状分析の精度が向上する
経理フロー全体を俯瞰し、どこに無駄や非効率があるのかを客観的に把握できます。
②最適なシステム選定・運用ができる
業種や業務フローに合った会計ソフトの選定や設定を行い、現場に定着しやすい環境を整えられます。
③社内ルールの整備が進む
業務マニュアルやチェックリストの作成・共有が進み、属人化の解消につながります。
④継続的な改善サイクルが回る
定期的なレビューや見直しを通じて、月次決算の精度とスピードを継続的に高めることができます。
単発の改善ではなく、継続的に見直しを行うことで、安定した運用とさらなる業務効率化につなげることが可能です。
相談先を選ぶ際に確認しておきたい3つのポイント
専門家や支援サービスを選ぶ際には、以下の3点を確認することをおすすめします。
業種・規模の支援実績があるかどうか
月次決算の課題は業種によって異なります。
製造業・小売業・サービス業では、管理すべき勘定科目や業務フローが大きく異なるため、自社と同じ業種・規模での支援実績がある専門家を選ぶことが重要です。
会計だけでなく業務フロー全体を見てくれるかどうか
月次決算の遅れは、会計処理の問題だけでなく、業務フローや社内ルールに原因があることもあります。
そのため、業務改善やDXの視点を持つ専門家に相談することで、より根本的な解決につながります。
継続的なサポート体制があるかどうか
一度だけのコンサルティングで終わるのではなく、改善後の定着フォローや定期的なレビューまで対応してもらえる体制があるかを確認しましょう。
月次決算の早期化は、一度改善すれば終わりではなく、会社の成長に合わせて継続的にブラッシュアップしていくものです。
月次決算の早期化は、一度改善すれば終わりではなく、会社の成長に合わせて継続的に見直していくことが大切です。
まとめ|月次決算の早期化は「仕組み化」がカギ
月次決算の早期化は、単なる作業効率の改善ではなく、経営の質を高める重要な取り組みです。
自社だけでの対応に限界を感じている場合は、専門家の視点を取り入れることで、よりスムーズかつ確実に改善を進めることができます。
月次決算の早期化について、自社の現状を客観的に把握したい方や、具体的な改善策を検討したい方は、ぜひ JNEXTグループ へのご相談をご検討ください。
会計・経理DXからバックオフィス全体の業務改善まで、貴社の実情に合わせたサポートを提供しています。

