
荻野岳雄
税理士法人JNEXT 代表社員
税理士/国税局OB。税理士法人JNEXT代表として中小企業の税務・経営支援に従事。DXを軸にした経営改善や税務戦略を得意とし、実務に基づく発信をYouTubeなどでも行っている。
領収書や請求書の山に埋もれ、保管スペースの圧迫や書類探しの時間ロスに悩んでいませんか。経理業務のペーパーレス化は、こうした課題を根本から解決し、業務効率を大幅に向上させる有効な手段です。2024年1月から電子帳簿保存法の新制度が本格施行され、企業規模を問わず電子化への対応が求められる環境となりました。
本記事では、経理のペーパーレス化を検討している経営者や経理担当者に向けて、導入のメリット、具体的な進め方、初心者がつまずきやすいポイント、そして専門家への相談が必要なケースまで、実務経験に基づいて詳しく解説します。自社に最適な電子化の道筋が見えてくるはずです。
経理のペーパーレス化とは?メリットと導入すべき理由
経理のペーパーレス化とは、これまで紙で作成・保管していた帳簿書類や取引関係書類を電子データで管理する仕組みを構築することです。請求書、領収書、契約書、帳簿などあらゆる経理関連書類をデジタル化し、システム上で保存・検索・承認できる環境を整えます。
単なるスキャン保存にとどまらず、電子帳簿保存法の要件を満たした形で運用することで、法的にも認められた正式な書類管理が可能になります。適切に導入すれば、業務効率化とコスト削減、コンプライアンス強化を同時に実現できるのです。
ペーパーレス化で解決できる経理の課題
多くの企業が抱える経理の課題は、紙ベースの業務フローに起因しています。まず挙げられるのが、書類の物理的な保管場所の問題です。法人税法では帳簿書類を7年間保存する義務があり、中小企業でもキャビネットや倉庫が過去の書類で埋め尽くされているケースは珍しくありません。
次に、書類の検索や確認に膨大な時間がかかる点です。過去の請求書を探すために段ボール箱を何十個も開けたり、ファイルを1ページずつめくったりする作業は、経理担当者の貴重な時間を奪います。月次決算や税務調査の際には、この非効率さが顕著に表れます。
さらに、承認フローの遅延も深刻です。紙の請求書は担当者から上長、経理部へと物理的に回覧されるため、承認者が不在だと処理が止まってしまいます。テレワーク環境では、この課題がより顕在化しています。
ペーパーレス化は、これらの課題を一気に解決します。電子データ化された書類は瞬時に検索でき、クラウドシステムを使えば場所を問わず承認作業が可能になるのです。
保管コスト削減と業務効率化の具体的効果
経理のペーパーレス化による経済的効果は想像以上に大きいものです。まず、書類保管にかかる直接コストが削減されます。オフィスの賃料を1坪あたり月2万円とすると、3坪分の保管スペースを削減できれば年間72万円のコスト削減になります。
さらに、印刷コストも見逃せません。A4用紙1枚あたりの印刷コストは約5円とされ、月間1000枚印刷している企業なら年間6万円の削減が可能です。加えて、プリンター保守費用、インク代、郵送費なども削減対象となります。
業務効率化の効果はさらに顕著です。ある中堅企業の事例では、請求書処理にかかる時間が1件あたり平均15分から5分に短縮され、月間200件処理する場合、約33時間の削減効果がありました。これは経理担当者1人の週労働時間に相当します。
検索時間の削減効果も重要です。紙書類の検索には平均10分かかるところ、電子化すれば数秒で目的の書類にアクセスできます。年間で考えると、担当者1人あたり数十時間の工数削減につながるのです。
電子帳簿保存法改正による法的後押し
2022年1月に施行された改正電子帳簿保存法は、経理のペーパーレス化を後押しする大きな転換点となりました。この改正により、電子取引データの電子保存が義務化され、紙での保存が認められなくなったのです。
当初は2年間の宥恕措置が設けられていましたが、2024年1月からは本格的な対応が求められています。メールで受け取った請求書や、ECサイトからダウンロードした領収書などは、電子データのまま保存しなければなりません。
一方で、改正法は要件の大幅な緩和も行いました。タイムスタンプの付与期間が最長2か月以内に延長され、検索要件も売上高1000万円以下の事業者には実質的に免除されるなど、中小企業でも導入しやすい環境が整いました。
また、スキャナ保存についても、適正事務処理要件が廃止され、相互牽制や定期検査といった厳格な社内体制の構築が不要になりました。これにより、小規模な組織でもペーパーレス化に取り組みやすくなったのです。
法令対応は義務ですが、単なる負担ではありません。この機会を業務改革のきっかけと捉え、効率化を進めることが賢明な経営判断といえます。
テレワーク対応と人手不足解消につながる理由
新型コロナウイルスの影響で急速に広がったテレワークですが、経理部門だけは出社が必要という企業が多く見られました。その最大の理由が、紙の書類処理と押印業務です。
ペーパーレス化を実現すれば、経理担当者も自宅やサテライトオフィスから業務を行えるようになります。クラウド会計システムと電子承認フローを組み合わせることで、請求書の処理から承認、支払いまで一連の業務をオンラインで完結できるのです。
この柔軟な働き方は、人材確保の観点でも重要です。経理人材の採用難は多くの企業が直面している課題ですが、フルリモートやハイブリッド勤務を提供できれば、地方在住者や子育て中の優秀な人材にもアプローチできます。
また、業務の標準化と自動化が進むことで、特定の担当者に業務が属人化するリスクも軽減されます。電子化されたデータは誰でもアクセスでき、システムが承認履歴を自動記録するため、担当者の急な休暇や退職にも対応しやすくなるのです。
慢性的な人手不足に悩む中小企業こそ、ペーパーレス化による業務効率化と働き方改革の両立が重要な経営課題となっています。
経理ペーパーレス化の具体的な進め方と初心者がつまずくポイント
ペーパーレス化のメリットは理解できても、実際にどこから手をつければよいか分からないという声をよく耳にします。ここでは、初心者でも着実に進められる具体的なステップと、実務でつまずきやすいポイントを詳しく解説します。
現状の業務フローと書類を棚卸しする方法
ペーパーレス化の第一歩は、現状把握です。いきなりシステム導入から始めるのではなく、まず自社の経理業務で発生する書類とその流れを可視化しましょう。
具体的には、以下の項目を整理します。まず、書類の種類と量です。請求書、領収書、契約書、見積書、納品書など、月間・年間でどれだけの書類を扱っているか把握します。次に、各書類の発生源と受け取り方法を確認します。紙で郵送されるもの、メールで受信するもの、システムからダウンロードするものなど、受け取り方法は多様です。
そして、承認フローを図式化します。誰が起案し、誰が承認し、どこで保管されるのか、一つの書類が辿る経路を明確にするのです。この作業により、ボトルネックや無駄な工程が見えてきます。
初心者がつまずくポイントは、完璧を目指しすぎることです。すべての書類を一度に電子化しようとせず、まずは処理件数の多い請求書や領収書から着手するのが現実的です。パレートの法則に従えば、上位20パーセントの書類種類が全体の80パーセントの業務量を占めているはずです。
現状把握には2週間から1か月程度かけ、関係部署へのヒアリングも行いましょう。営業部門や購買部門など、経理以外の部署の協力も不可欠です。
電子帳簿保存法の要件を満たす電子化の手順
電子化を進める際、最も注意すべきは電子帳簿保存法の要件です。単にPDFで保存すればよいわけではなく、法令で定められた保存要件を満たさなければ、税務調査で否認されるリスクがあります。
電子帳簿保存法には3つの区分があります。1つ目は電子帳簿等保存で、会計ソフトで作成した帳簿をデータのまま保存する方法です。2つ目はスキャナ保存で、紙で受け取った書類をスキャンして電子保存します。3つ目は電子取引データ保存で、メールやウェブサイトで受け取った電子データを保存します。
2024年1月以降、電子取引データ保存は完全義務化されています。電子データで受け取った書類は、真実性と可視性の確保が求められます。具体的には、改ざん防止措置としてタイムスタンプの付与または訂正削除の履歴が残るシステムでの保存が必要です。また、検索機能の確保として、取引年月日、取引金額、取引先名で検索できる状態での保存が義務付けられています。
初心者がつまずくのは、この要件を正確に理解せずにシステムを導入してしまうケースです。例えば、メールに添付された請求書をそのまま通常のフォルダに保存しているだけでは、検索要件を満たしていません。ファイル名を規則的に付ける、または専用システムを使う必要があるのです。
スキャナ保存については、解像度や階調、タイムスタンプの付与タイミングなど細かい要件があります。スマートフォンでの撮影も認められていますが、明瞭な画像であることが条件です。
法令要件は定期的に更新されるため、国税庁のウェブサイトや専門家の情報を常にチェックする姿勢が重要です。
システム・ツール選定で失敗しないためのチェック項目
経理のペーパーレス化を実現するシステムやツールは数多く存在し、選定に迷う企業も少なくありません。失敗しないためには、以下のチェック項目を押さえましょう。
まず、電子帳簿保存法への対応状況です。JIIMAの認証を取得しているシステムかどうか確認します。認証製品であれば、法令要件を満たす機能が実装されているため安心です。
次に、既存の会計システムとの連携性です。入力の二度手間を避けるため、現在使っている会計ソフトとデータ連携できるかは重要なポイントです。API連携やCSV出力機能の有無を確認しましょう。
使いやすさも見逃せません。どんなに高機能でも、現場の担当者が使いこなせなければ意味がありません。無料トライアルを活用し、実際に操作してみることをおすすめします。
コスト面では、初期費用だけでなく、月額料金、ユーザー数による課金体系、追加オプション費用なども含めて総額を比較します。小規模企業向けの低価格プランから、大企業向けの高機能版まで幅広く存在するため、自社の規模と予算に合ったものを選びましょう。
サポート体制も重要です。導入時のサポート、運用開始後の問い合わせ対応、法改正時のシステムアップデート対応など、長期的な視点で評価します。
初心者がつまずくのは、機能の豊富さに惹かれて過剰なシステムを導入してしまうケースです。まずは必要最小限の機能から始め、運用が安定してから拡張していく段階的アプローチが現実的です。
社内の理解を得るための周知と研修のコツ
ペーパーレス化の最大の障壁は、技術ではなく人の意識です。長年紙での業務に慣れた従業員にとって、システム化は不安や抵抗感を生みやすいものです。
導入を成功させるには、経営層からのメッセージが不可欠です。なぜペーパーレス化を進めるのか、会社の方針として明確に打ち出し、トップダウンでコミットメントを示しましょう。コスト削減や業務効率化といった経営メリットだけでなく、従業員の働きやすさ向上にもつながることを強調します。
研修は段階的に行うのが効果的です。まず、電子帳簿保存法の基礎知識と会社の方針を全社員に説明する全体研修を実施します。次に、実際にシステムを操作する部署向けに、ハンズオン形式の実務研修を行います。
初心者がつまずくポイントは、一度の研修で完璧を求めることです。新しいシステムは使いながら慣れていくものなので、マニュアル整備とともに、気軽に質問できる相談窓口を設けることが重要です。
また、パイロット運用から始めるのも有効です。特定の部署や書類種類に限定して先行導入し、問題点を洗い出してから全社展開すれば、混乱を最小限に抑えられます。
現場からの改善提案を積極的に取り入れる姿勢も大切です。実際に使う担当者の声を反映することで、システムの実用性が高まり、定着率も向上します。
紙の領収書・請求書をスキャナ保存する際の注意点
紙で受け取った領収書や請求書をスキャナ保存する際には、電子帳簿保存法のスキャナ保存要件を遵守する必要があります。違反すると税務調査で経費として認められないリスクがあるため、正確な理解が不可欠です。
まず、解像度と階調の要件です。200dpi以上の解像度で、赤・緑・青それぞれ256階調以上のカラー画像で保存しなければなりません。白黒スキャンは原則として認められないため注意が必要です。
次に、タイムスタンプの付与または訂正削除履歴の保存です。スキャン後、速やかにタイムスタンプを付与するか、訂正削除ができないまたは履歴が残るシステムで保存します。タイムスタンプは、最長で書類受領から2か月と概ね7営業日以内に付与する必要があります。
大きさ情報の保存も求められます。A4を超える書類については、実際の大きさが分かる情報を別途保存しなければなりません。
初心者がつまずくのは、スキャン後に原本を廃棄してよいタイミングです。スキャナ保存制度を適用する場合、タイムスタンプ付与などの要件を満たせば、原則として原本を廃棄できます。ただし、重要書類については一定期間原本を保管する社内ルールを設ける企業も多く見られます。
また、レシートなど感熱紙の書類は時間経過で印字が消える恐れがあるため、早めにスキャンすることが重要です。経費精算の提出期限を設け、受領後すぐに電子化する運用フローを構築しましょう。
スマートフォンアプリを使った撮影保存も認められていますが、ピンボケや光の反射で文字が読めない画像は要件を満たしません。撮影後の確認プロセスを必ず設けてください。
過去の紙書類はどこまで電子化すべきか
ペーパーレス化を進める際、過去の膨大な紙書類をどう扱うかは悩ましい問題です。結論から言えば、法的には過去の紙書類を遡って電子化する義務はありません。
電子帳簿保存法は、制度適用開始時点から将来に向かって適用されるものであり、過去の書類まで遡及して電子化を求めるものではないのです。したがって、過去分の紙書類は従来どおり紙のまま保存を継続しても問題ありません。
ただし、実務的な観点から一部の過去書類を電子化する価値はあります。判断基準は以下の通りです。
まず、参照頻度の高い書類です。継続的な取引先との基本契約書や、現在進行中のプロジェクトに関連する過去の見積書・発注書などは、電子化しておくと業務効率が向上します。
次に、保管スペースを大きく占めている書類です。7年分の月次書類が倉庫を圧迫しているなら、保管コスト削減効果を考慮して電子化を検討する価値があります。
一方、保存期間が残り1年以内の書類は、わざわざ電子化せず紙のまま保存期間満了を待つほうが合理的です。
初心者がつまずくのは、完璧主義に陥り、すべての過去書類を電子化しようとして挫折するケースです。優先順位を明確にし、費用対効果の高いものから段階的に進めることが成功の鍵です。
外部の書類電子化サービスを利用する選択肢もあります。専門業者に依頼すれば、大量の書類を短期間で電子化できますが、コストと機密性の確保には注意が必要です。
こんなケースは専門家への相談がおすすめ
ペーパーレス化は自社だけで進められる部分も多い一方、専門家のサポートが不可欠なケースもあります。誤った対応は税務リスクや業務の混乱を招くため、以下のような状況では早めに専門家へ相談することをおすすめします。
法令要件を正しく理解して税務リスクを避けたい
電子帳簿保存法は要件が細かく、解釈が難しい部分も少なくありません。国税庁のQ&Aやガイドラインは公開されていますが、自社の具体的な業務にどう適用すればよいか判断に迷うケースは多いものです。
例えば、複数の取引先から様々な形式で書類を受け取る場合、それぞれの保存方法をどう整理すべきか、電子と紙が混在する移行期間をどう管理すべきかなど、個別の状況に応じた判断が必要です。
税理士や公認会計士は、電子帳簿保存法の最新動向を把握し、税務調査のリスクを考慮した実務的なアドバイスを提供できます。特に、過去の税務調査で指摘を受けた経験がある企業や、取引規模が大きく税務リスクを最小化したい企業は、専門家の関与が重要です。
また、業種特有の書類や複雑な商流がある場合も、専門家の知見が役立ちます。建設業の工事台帳、医療機関のカルテ、不動産業の賃貸借契約書など、業種によって保存すべき書類や要件が異なるためです。
法令違反のリスクは、後から発覚すると修正コストが膨大になります。導入前の段階で専門家のチェックを受けることで、安心して運用をスタートできるのです。
自社に最適なシステム選定と業務フロー全体の見直しが必要な場合
システム選定は、単なる製品比較にとどまらず、自社の業務フロー全体の最適化を視野に入れるべきです。しかし、多くの企業は現状業務をそのままシステムに載せ替えようとして、かえって非効率になるケースがあります。
経営コンサルタントや業務改善の専門家は、ペーパーレス化を機に業務プロセス全体を見直し、無駄な承認ステップの削減や、部署間の連携強化など、抜本的な改革を提案できます。
例えば、請求書処理であれば、受領から支払いまでの一連のフローを可視化し、どこでボトルネックが発生しているか分析します。その上で、システム導入とあわせて承認権限の見直しや、自動仕訳機能の活用など、トータルでの効率化を設計するのです。
また、複数システムの連携設計も専門知識が必要です。会計システム、経費精算システム、電子契約システム、ワークフローシステムなど、複数のツールをどう組み合わせて最適な環境を構築するかは、ITコンサルタントの支援が有効です。
導入後の定着支援も重要なポイントです。システムを入れただけで運用が軌道に乗るケースは少なく、初期のトラブル対応やユーザーサポート、継続的な改善活動が成功の鍵を握ります。
JNEXTグループでは、経理のペーパーレス化に関する包括的な支援を提供しています。電子帳簿保存法への対応から、システム選定、業務フロー設計、導入後のサポートまで、一貫してお手伝いします。初回相談は無料ですので、ペーパーレス化でお悩みの経営者の方は、ぜひお気軽にご相談ください。貴社の状況に合わせた最適なソリューションをご提案いたします。

