証憑の電子保存|電子帳簿保存法に対応する進め方と注意点

証憑の電子保存|電子帳簿保存法に対応する進め方と注意点
この記事の監修者

荻野岳雄
税理士法人JNEXT 代表社員

税理士/国税局OB。税理士法人JNEXT代表として中小企業の税務・経営支援に従事。DXを軸にした経営改善や税務戦略を得意とし、実務に基づく発信をYouTubeなどでも行っている。

請求書・領収書・契約書など、取引の証拠となる書類(証憑)の管理が部門ごとにバラバラで、月末になるたびに確認作業に追われていませんか。

「クラウドに保存すれば解決する」と思って導入したものの、後から探せない、誰に聞けばいいかわからない、という状態になっているケースは少なくありません。

証憑の電子保存は、PDFを保存すれば終わりではありません。
電子帳簿保存法の要件を踏まえながら、受領・承認・保存・検索・会計連携までの流れを整えることが本質です。

本記事では、電子帳簿保存法に対応した証憑の電子保存の進め方と、現場で定着させるための運用設計のポイントを解説します。

目次

証憑の電子保存はPDFを保管するだけでは不十分

電子帳簿保存法では、書類の種類や受け取り方によって、保存に求められる要件が異なります。
保存先を用意するだけでは対応が完結しない理由を、まず整理しておきましょう。

証憑(しょうひょう)とは
請求書・領収書・契約書・見積書・納品書など、取引の事実を証明する書類の総称です。
これらを電子データとして保存することを「証憑の電子保存」といいます。

電子取引データは電子データのまま保存する必要がある

メールに添付された請求書や、クラウドサービス経由で受け取った領収書などは、電子取引データとして扱われます。
電子帳簿保存法では、こうした電子取引データを紙に印刷して保管するだけでは要件を満たせません

電子データのまま保存したうえで、次の要件を満たす必要があります。

  • 後から取引年月日・金額・取引先などで検索できる状態になっているか
  • 改ざん防止の措置や、訂正・削除時のルールが整っているか
  • 必要なときに画面で確認・印刷できる状態になっているか

「メールに添付されたPDFを共有フォルダに入れているだけ」という運用は、これらの要件を満たせていない可能性があります。

証憑の管理が分散すると確認作業が増えやすい

中小企業の現場では、請求書はメール、領収書は紙、契約書はPDF、経費精算はExcelというように、証憑の管理が分散しているケースが少なくありません。

この状態が続くと、次のような問題が生じやすくなります。

問題具体的な状況
月末の確認作業が増える部門ごとに証憑を集める作業が毎月発生する
差し戻しが増える書類の抜け漏れや記載ミスの確認に時間がかかる
経理担当者への負担集中確認・入力・保管をひとりで抱えることになる
税務調査時に説明しにくいどこに何があるか把握できていない状態になる

分散した管理を放置すると、電子保存を進めても同じ問題が繰り返されます

証憑の電子保存は法対応と業務改善を同時に進める取り組み

証憑の電子保存は、電子帳簿保存法への対応という側面だけではありません。
請求書の受領から承認・保存・会計入力までの流れを整えることで、無駄な転記や確認作業を減らし、月次処理の早期化にもつながります。

つまり、証憑の電子保存は「保管の問題」ではなく「運用設計の問題」として捉えることが出発点です。
この視点を持たないまま保存先だけ決めると、現場に定着しない仕組みができあがります。

電子帳簿保存法で押さえたい証憑の保存区分

電子帳簿保存法への対応を進めるうえで、まず理解しておきたいのが保存区分です。
同じ「電子保存」でも、書類の種類や受け取り方によって、適用される区分とルールが異なります。
区分を混同したまま進めると、一部しか対応できていない状態になりやすいため、最初に整理しておきましょう。

電子取引|メールやクラウドで受け取った取引データ

メール添付で受け取った請求書や、クラウドサービス上で発行された領収書などは「電子取引」に該当します。
電子取引データは、電子帳簿保存法により、電子データのまま保存する必要があります。

確認しておきたいポイントは次のとおりです。

  • 電子データを紙に印刷して保管するだけでは要件を満たせない
  • 取引年月日・金額・取引先などで検索できる状態にしておく必要がある
  • 改ざん防止のための措置が求められる

メールやクラウドなどで電子的に授受する取引書類は、この区分に該当するため、対応漏れが起きやすい領域です。

スキャナ保存|紙で受け取った請求書・領収書の電子化

スキャナ保存とは、紙で受け取った請求書や領収書をスキャンして電子データとして保存する方法です。
スキャナ保存を行う場合は、一定の要件を満たす必要があります。

確認項目内容
解像度一定水準以上で読み取る必要がある
階調書類の種類に応じた要件を確認する
タイムスタンプ等要件に応じて付与や代替措置を確認する
検索機能取引年月日・金額・取引先で検索できる状態にする

スキャナ保存は任意対応ですが、紙の原本を廃棄してペーパーレス化したい場合には要件を満たす必要があります。

電子帳簿等保存|会計ソフトなどで作成した帳簿・書類

電子帳簿等保存とは、会計ソフトなどで自社が電子的に作成した帳簿・書類を、電子データのまま保存する区分です。
紙に印刷して保管する代わりに、データのまま保存することが認められています。

この区分は任意対応です。
電子保存を選択する場合は、保存する帳簿・書類に応じて、訂正・削除履歴や検索機能などの要件を確認する必要があります。

請求書・領収書・契約書は受け取り方で扱いが変わる

同じ請求書でも、受け取り方によって該当する区分が変わります。

書類受け取り方該当する区分
請求書メール添付で受け取った電子取引
請求書郵送で受け取ったスキャナ保存(任意)
領収書クラウド上で発行された電子取引
領収書紙で受け取ったスキャナ保存(任意)
契約書電子契約で締結した電子取引
契約書紙で締結したスキャナ保存(任意)

「電子取引だけ対応すればいい」と考えがちですが、紙で受け取る書類が混在している場合は注意が必要です。
スキャナ保存の運用もあわせて設計しておかないと、対応が一部だけで終わるリスクがあります。

証憑の電子保存で決めておきたい運用ルール

保存区分が整理できたら、次は運用ルールの設計です。
どの区分に該当するかを理解しても、実際の運用が決まっていなければ現場には定着しません。
保存場所・ファイル名・検索方法・権限設定など、導入前に決めておきたい項目を整理します。

保存場所|証憑を部門ごとに分散させない

証憑の保存場所が部門ごとにバラバラだと、経理が月末に集約する作業が毎回発生します。
保存場所は会社全体で統一し、書類の種類ごとにフォルダ構造を設計しておきましょう

確認しておきたい点は次のとおりです。

  • 全部門が同じ場所に保存するルールになっているか
  • 個人のPCやメールフォルダに証憑が残っていないか
  • 担当者が変わっても迷わず保存・検索できる構造になっているか

保存場所の統一は、運用設計の出発点です。

ファイル名・検索方法|取引日・金額・取引先で探せる状態にする

電子取引データでは、取引年月日・金額・取引先の3項目で検索できる状態が求められます
ファイル名にこれらの情報を含めるか、システム側で検索項目を設定しておく方法が一般的です。

ファイル名のルール例を整理します。

項目
基本形式日付_取引先名_書類種別_金額
記載例20250401_〇〇商事_請求書_55000

ルールが曖昧なまま運用すると、担当者ごとにファイル名がばらばらになり、後から探せない状態になります。
導入前にサンプルを作って社内で共有しておくと定着しやすくなります。

訂正・削除|変更履歴や差し替え時のルールを決める

電子取引データでは、訂正・削除の履歴が管理されている状態が求められます
システム側でログが自動記録される場合はそれを活用し、そうでない場合は事務処理規程として社内ルールを文書化しておく方法があります。

決めておきたいのは次の点です。

  • 差し替えが発生した場合、旧ファイルをどう扱うか
  • 誰が訂正・削除の操作をできるかを決めているか
  • 変更した理由と日時を記録する手順があるか

訂正・削除のルールがないまま運用すると、税務調査の際に説明できない状態になるリスクがあります。

権限設定|閲覧・承認・削除の範囲を分ける

証憑には給与情報・取引金額・契約条件など、機微性の高い情報が含まれます。
誰でも閲覧・削除できる状態は、情報管理の面でも法令対応の面でも避けなければなりません

役割ごとに権限を整理します。

役割権限の考え方
経理担当者保存・検索・編集
承認者・管理職閲覧・承認
経営者全体閲覧(編集は制限)
外部専門家必要書類のみ限定共有

権限設定はシステム導入時に後回しにされがちですが、後から変更すると現場への影響が大きくなります。
導入前に設計しておきましょう。

例外処理|紙原本や特殊な取引の扱いを決める

現場では、ルール通りにいかないケースが必ず発生します。
例外処理のルールを決めていないと、担当者ごとに対応がばらばらになり、運用が崩れる原因になります。

あらかじめ決めておきたい例外パターンです。

  • 紙で受け取った書類をスキャンする場合の手順と期限
  • 電子保存後の紙原本を廃棄してよいか、保管が必要かの判断基準
  • 取引先の都合でメール以外の方法で受け取った場合の対応
  • 修正や差し替えが発生した場合の旧データの扱い

例外処理をルール化しておくことで、担当者が変わっても運用が止まらない仕組みになります。

証憑の電子保存の進め方|電子帳簿保存法に対応した手順

運用ルールの設計ができたら、実際に電子保存を進める段階です。
一度にすべてを変えようとすると現場が混乱しやすくなります。
順番を決めて、一つずつ定着させていく進め方が現実的です。

現在の証憑の受け取り方を洗い出す

最初に取り組むのは、自社でどの証憑が、どの部門で、どの形式で発生しているかの現状把握です。
経理だけでなく、営業・購買・総務・現場部門も含めて確認します。

洗い出す項目の例です。

確認項目内容
書類の種類請求書・領収書・契約書・見積書など
受け取り方メール・郵送・クラウド・手渡しなど
発生部門経理・営業・購買・総務など
現在の保存方法紙・共有フォルダ・メール・Excelなど
件数・頻度月に何件程度発生しているか

この現状把握を省いて進めると、後から「この書類はどうするのか」という問い合わせが増え、運用が止まる原因になります。

電子保存する書類の優先順位を決める

現状が把握できたら、どの書類から電子保存を始めるかを決めます
すべてを一度に変えようとすると失敗しやすいため、件数が多く手間の大きい書類から着手するのが現実的です。

優先順位の考え方を整理します。

  • 受領件数が多い書類から始める(請求書・領収書が該当しやすい)
  • 電子取引に該当する書類を優先する(法令対応として必須のため)
  • 承認や支払処理と直結する書類を早めに整える

経費精算や請求書管理から始める会社が多いのは、効果が見えやすく、現場への説明もしやすいからです。

保存ルールを社内で共有する

保存ルールを決めたら、現場への周知が欠かせません。
マニュアルを作っても読まれなければ意味がないため、実際の業務フローに沿った説明と、例外時の問い合わせ先を明確にしておきましょう

共有しておきたい内容です。

  • ファイル名の付け方と保存場所のルール
  • 電子取引データの受領時にやるべき手順
  • 紙で受け取った書類のスキャン手順と期限
  • 例外が発生した場合の対応窓口

ルールの周知は一度で終わりではありません。
担当者が変わるタイミングや、運用上の問題が出たタイミングで見直す機会を設けておくと定着しやすくなります。

経費精算・請求書管理・承認フローとつなげる

証憑の電子保存を単独で進めても、経費精算や請求書管理の運用が変わらなければ効果は限定的です。
申請・承認・保存の流れを一本化することで、証憑の電子保存が実務に根づきます。

見直しの対象として確認したい流れです。

  • 社員が領収書をスマートフォンで撮影し、申請データと一緒に提出できるか
  • 承認履歴が記録として残る仕組みになっているか
  • 請求書の受領時点で一元管理できる保存先があるか

紙の申請やメール返信で承認しているフローが残っていると、証憑だけ電子化しても運用の手間は変わりません。

会計システムとの連携を確認する

証憑の電子保存を業務改善につなげるには、会計システムとの連携が欠かせません
保存した証憑を見ながら別画面で手入力しているだけでは、紙からPDFに変わっただけで本質的な改善にはなりません。

連携の観点で確認しておきたい点です。

  • 請求書データが会計仕訳や支払予定に自動でつながる仕組みがあるか
  • 勤怠・給与・経費のデータが会計側へ流れる状態になっているか
  • 導入するシステムが既存の会計ソフトと連携できるか

会計システムとの連携まで設計することで、入力ミスの削減と月次処理の早期化が同時に進みます。

証憑の電子保存で失敗しやすいケース

電子保存の仕組みを整えても、要件確認や社内運用が不十分だと定着しないケースがあります。
自社に当てはまるものがないか確認しておきましょう。

PDFを保存するだけで要件を確認していない

メールで受け取った請求書をフォルダに保存していても、電子帳簿保存法の要件を満たしているとは限りません。
検索性や改ざん防止など、保存後の管理方法まで確認する必要があります

確認したい主な項目は、次の3つです。

  • 取引年月日・金額・取引先で検索できるか
  • 改ざん防止や訂正・削除のルールがあるか
  • 必要なときに画面表示や印刷ができるか

「保存している」と「要件を満たしている」は別です。
導入後に確認すると、保存方法の見直しが必要になるケースもあります。

紙と電子データの扱いが混在している

請求書は電子保存、領収書は紙のままというように、書類ごとに扱いが分かれることがあります。
移行期間中は避けにくい状態ですが、ルールがないまま放置すると、処理がばらつきやすくなります。

混在しやすいパターンはこちらです。

状況起こりやすい問題
請求書は電子、領収書は紙のまま月末の集約作業が二重になる
一部の取引先だけ紙対応が残っている例外処理で担当者が迷いやすい
スキャンデータと紙原本を両方保管しているどちらを正とするか不明確になる

紙と電子データが混在する場合は、切り替え時期や例外処理を決めておく必要があります
あわせて、原本の保管・廃棄ルールも整理しておきましょう。

ルールが現場に定着していない

電子保存のルールを作っても、経理担当者だけが理解している状態では運用は安定しません
申請者や承認者に伝わっていなければ、結局メールや紙の運用に戻ってしまうことがあります。

定着させるために確認したい点です。

  • 申請者・承認者・経理担当者の役割が分かれているか
  • 保存場所やファイル名のルールが共有されているか
  • 例外時の問い合わせ先や対応方法が決まっているか

現場が使いにくいルールは長続きしません。
導入前に業務フローを確認し、無理なく続けられる形に整えましょう。

証憑の電子保存を専門家に相談すべきケース

電子帳簿保存法への対応や運用設計は、自社だけで進めると判断に迷う場面が出てきます。
次のような状況に当てはまる場合は、早めに専門家への相談を検討することで、対応の精度が上がりやすくなります。

電子帳簿保存法の区分判断に迷う場合

「この書類は電子取引に該当するのか、スキャナ保存でよいのか」という判断は、書類の種類や受け取り方によって異なります。
区分を誤ったまま運用すると、後から要件を満たしていないことが判明し、保存方法を作り直す手間が発生します。

特に次のような状況では、自社だけでの判断が難しくなりやすいケースです。

  • 電子取引と紙が混在していて、どちらの区分で対応すべきか整理できていない
  • 複数の部門で異なる受け取り方をしていて、統一ルールが作れていない
  • 法令の要件を満たしているか、自社で確認する手段がない

請求書・領収書・契約書の管理が部門ごとに違う場合

書類の種類や部門ごとに保存方法がばらばらな場合、保存ルールだけを決めても現場に定着しにくくなります。
次のような状態が続いている場合は、業務フローの見直しから着手することが大切です

  • 営業・購買・総務それぞれが別々の方法で証憑を管理している
  • 経理が月末に各部門から証憑を集める作業が毎回発生している
  • 承認フローが部門ごとに異なり、統一できていない

保存ルールの設計と同時に、部門をまたいだ業務フローの整理が求められる場合、専門家のサポートで整理が進みやすくなります。

経費精算や会計システムまで見直したい場合

証憑の電子保存をきっかけに、経費精算の仕組みや会計システムとの連携まで見直したいと考える場合、保存の仕組みだけでは対応が完結しません。

次のような課題が重なっている場合は、バックオフィス全体の見直しとして進める方が効率的です。

  • 経費精算が紙やExcelのままで、証憑の電子保存と連動していない
  • 会計システムへの入力が手作業で残っていて、二重入力が発生している
  • 勤怠・給与・経費のデータが会計側につながっておらず、月次処理に時間がかかっている

こうした課題は、証憑の電子保存だけを切り取って解決しようとしても限界があります。
業務フローと会計システムをまとめて見直せる専門家に相談することで、整理の糸口が見つかりやすくなるでしょう。

まとめ:証憑を保存後に探せる・説明できる状態に整えよう

証憑の電子保存では、保存後に探せることや、要件を説明できることまで求められます
電子帳簿保存法の要件を満たしながら、受領・承認・保存・検索・会計連携までの流れを整えることが本質です。

導入前に確認しておきたいポイントを整理します。

  • 電子取引・スキャナ保存・電子帳簿等保存の区分を書類ごとに整理する
  • 保存場所・ファイル名・検索方法・権限設定のルールを決める
  • 経費精算・承認フロー・会計システムとの連携まで一体で設計する

自社だけでの区分判断や運用設計が難しい場合は、JNEXTグループへのご相談をご検討ください
税理士・社会保険労務士・システム会社が一体となった支援体制で、証憑の電子保存から会計フロー改善まで、貴社の状況に合わせた対応が可能です。
まずはお気軽にお問い合わせください。

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この記事を書いた人

JNEXTグループ編集部は、税務・会計・労務・DXなどの複雑な情報を、初めての方にも分かりやすく届けることを目的に活動しています。税理士、社会保障監修のもと、正確で実務に役立つ内容を丁寧に解説し、読者の不安を少しでも減らせる記事づくりを心がけています。

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