雇用契約電子化の進め方|中小企業向け実践ガイド

雇用契約電子化の進め方|中小企業向け実践ガイド
この記事の監修者

平沢邦雄
JNEXT社会保険労務士法人 代表社員

企業の労務管理、社会保険手続き、人事制度設計などを中心に、数多くの法人・個人事業主を支援。実務に即したわかりやすい解説を得意とし、最新の法改正を踏まえた正確な情報提供を行っている。

「毎回の採用のたびに雇用契約書を印刷・郵送・返送してもらうのが手間になっている」
「テレワーク勤務の社員に紙の契約書を送るのが現実的ではなくなってきた」
「雇用契約を電子化したいが、法的に問題ないか不安で踏み出せない」

こうした声は、採用活動が活発な時期や、テレワーク導入が進んだ会社で多く聞かれます。
雇用契約の電子化は、業務効率化だけでなく、コスト削減・ペーパーレス化・リモート採用への対応という観点から、今後の会社運営に欠かせない取り組みのひとつといえるでしょう。

雇用契約書や労働条件通知書は労働基準法が定める重要な書類であり、電子化にあたっては、法的要件を正しく理解したうえで進めることが大切です。
要件を満たさない場合は法令違反になる可能性もあるため、正確な知識を持った対応が求められます

本記事では、雇用契約の電子化に必要な法的根拠・実務手順・注意点を専門家の視点からわかりやすく解説します。
これから電子化に取り組む経営者の方にとって、実践的な参考資料としてお役立てください。

目次

雇用契約の電子化とは何か|導入前に知っておくべき基本

雇用契約の電子化は、正しく進めれば大きな業務効率化につながります。
まずは基本的な意味と、電子化が認められる法的根拠を整理しておきましょう。

「雇用契約の電子化」とはどういうことか、まず基本を整理する

雇用契約の電子化とは、従来は紙で交わしていた雇用契約書・労働条件通知書などの書類を、電子データとして作成・交付・保管する取り組みのことです。

雇用契約に関連する主な書類は以下の2つです。

・労働条件通知書
労働基準法第15条により、会社は労働者を雇用する際に労働条件(賃金・労働時間・就業場所など)を書面で明示する義務があります。
2019年4月の法改正により、一定の要件を満たした場合に電子的方法による交付が認められるようになりました。

・雇用契約書(労働契約書)
労働契約の成立を証明する書類です。 労働基準法上の交付義務は明示されていませんが、トラブル防止の観点から多くの会社で書面による締結が行われてきました。
電子契約の普及により、こちらも電子的に締結できる環境が整っています。

電子化の主な方法は以下の2つです。

電子署名サービスの活用
クラウドサイン・DocuSign・freeeサインなどを使ったオンライン署名

電子ファイルの送付
PDFなどの電子ファイルをメールで送信する方法

方法によって法的効力や要件が異なるため、適切な方法を選択することが大切です。

電子化が認められる法的根拠と、満たすべき要件の概要

雇用契約の電子化を進めるうえで、まず理解すべきなのが法的根拠と要件です。

労働条件通知書の電子交付に関しては、労働基準法施行規則第5条第4項に基づいて認められており、次の3つの要件を満たすことが必要とされています。

要件①

労働者が電子交付を希望または同意していること。
会社側が一方的に電子化することはできず、必ず労働者の同意が前提となります。

要件②

労働者がその内容を出力(印刷)して書面を作成できること。
電子ファイルで送付した場合、受け取った労働者が自分でプリントアウトできる環境にあることが求められます。

要件③

労働者の使用するFAX番号・電子メールアドレスなど、労働者を特定できる方法で交付すること。
誰に対して交付したかが明確である必要があります。

雇用契約書(労働契約書)の電子締結については、電子署名法(電子署名及び認証業務に関する法律)の規定に基づき、適切な電子署名が付与された電子文書は書面と同等の法的効力を持ちます。
ただし、電子署名の方式(立会人型・当事者型)によって証拠力の強さが異なるため、リスク管理の観点から方式を選択することが重要です。

これらの法的要件は法改正により変更される可能性があります。
最新の法令動向を確認しながら対応を進めるようにしてください。

電子化によって会社側・従業員側にどんなメリットがあるか

雇用契約の電子化は、会社側・従業員側の双方にメリットをもたらします。

会社側のメリット

コストと手間の削減
紙の契約書の印刷・製本・郵送・返送確認・保管というプロセスには、1件あたり数百円〜数千円のコストと数日の時間がかかります。
採用人数が多い会社や複数の拠点を持つ会社では、このコスト削減効果は大きくなります

書類管理の効率化
電子データとして保管することで、過去の契約書を検索・確認する際の手間が大幅に減ります
保管スペースの削減と紛失リスクの低減にもつながります。

リモート採用への対応
テレワーク勤務の社員・地方在住の採用候補者・外国籍の社員など、物理的に紙のやり取りが難しいケースでも、スムーズに契約手続きを進めることができます

従業員側のメリット

どこにいても契約書の確認・署名ができる利便性の向上があります。
入社前の手続きをオンラインで完結できることは、候補者にとっても入社体験の向上につながります。

電子化の進め方と、初心者が見落としやすい注意点

電子化を進めるうえでは、書類の種類ごとに異なる要件を正しく把握することが大切です。
ここでは実務の手順と、つまずきやすいポイントを整理します。

実務の手順①:労働条件通知書・雇用契約書の電子化に必要な要件

雇用契約の電子化を実際に進めるにあたって、まず確認すべきなのは電子化する書類の種類と、それぞれに求められる要件です。

労働条件通知書の電子交付
労働条件通知書の電子交付に関しては、前述の3要件を満たすことが必要です。

・労働者の同意
・出力可能な形式
・労働者を特定できる交付方法

実務上は、採用手続きの開始時に電子交付への同意を取得します。
その後、PDFファイルをメールで送付するか、電子契約サービス上で閲覧・ダウンロードできる形式で提供する方法が一般的です。

雇用契約書の電子締結
雇用契約書の電子締結については、電子署名の種類と方式の選択が重要なポイントです。
主な方式として以下の2つがあります。

・立会人型電子署名(クラウド型)
クラウドサインやfreeeサインなどのサービスが提供する方式で、サービス事業者が立会人として署名を証明します。手軽に導入できコストも低いため、中小企業での採用が増えています。

・当事者型電子署名
署名者自身が電子証明書を取得して署名する方式で、証拠力が高い一方で、署名者が証明書を用意する手間があります。

雇用契約書における使い分けとしては、通常の雇用契約書であれば立会人型で十分な証拠力が確保できるケースが多く、中小企業では立会人型からスタートすることをおすすめします。

実務の手順②:従業員への事前説明と同意取得の進め方

雇用契約の電子化で最も重要かつ見落とされやすいのが、従業員への事前説明と同意取得のプロセスです。

労働条件通知書の電子交付は、労働者の同意なしには実施できません。
この同意は、採用手続きの開始時または入社手続きの説明の際に取得することが一般的です。

同意取得の方法として、以下の点を押さえておくとよいでしょう。

同意の内容を明確にする
「労働条件通知書および雇用契約書を電子的方法により交付・締結することに同意します」という内容を明確に伝え、口頭だけでなく書面またはメール上での同意記録を残すことが重要です。

同意を強制しない
電子化への同意は、あくまで労働者の自由意思による必要があります。
「同意しなければ採用しない」という圧力をかけることは適切ではなく、同意しない場合には紙での対応を行う旨を伝えることが求められます。

同意取得のタイミングを適切に設定する
内定通知後・入社手続き案内時など、労働者が十分に内容を確認できるタイミングで同意取得を行うことをおすすめします
採用通知と同時に同意を求めると、事実上の強制と受け取られるリスクがあります。

同意書は電子データで保管する
取得した同意書(または同意したことを示すメール・ログ)は、後のトラブル防止のために保管しておくことが重要です。

実務の手順③:電子署名・クラウドシステム選定時の確認ポイント

電子署名サービスやクラウドシステムを選定する際には、次のポイントを確認しておきましょう。

電子署名の方式と法的効力の確認
前述の立会人型・当事者型のどちらに対応しているかを確認します。
また、タイムスタンプ(書類の存在時刻を証明する機能)が付与されるかどうかも確認してください。
タイムスタンプがあることで、後から書類が改ざんされていないことを証明しやすくなります。

電子帳簿保存法への対応
雇用契約書などの電子文書を保管する際は、電子帳簿保存法の「電子書類」に関する要件(真実性・可視性の確保)を満たす必要があります。
選定するシステムがこれらの要件に対応しているかを確認しましょう。

既存システムとの連携性
人事管理システム・給与計算ソフト・採用管理ツールとの連携が可能かどうかを確認します。
連携できれば、入社手続きの全体フローを効率化できます。

コストと利用人数のバランス
電子署名サービスは、月額固定制・件数課金制・ユーザー数課金制など、料金体系がサービスによって異なります。
自社の採用頻度と利用人数に合った料金体系のサービスを選ぶことで、コストを最適化できます。

初心者がつまずきやすい「同意なき電子化」が招くリスクに注意

雇用契約の電子化で初心者が最もつまずきやすいのが、労働者の同意を得ずに電子化を進めてしまうケースです。

「採用の効率化のために電子化を進めたい」という意図は理解できますが、労働条件通知書の電子交付は労働者の同意が法的要件とされています。
同意を取得せずに電子交付のみを行った場合、労働基準法第15条の「書面による明示義務」を果たしていないと判断される可能性があります。

このような状況が発覚した場合、以下のリスクが生じます。

・労働基準監督署からの指導・是正勧告の対象になる
・労働条件の明示が不十分であったことを理由に、労働者との間でトラブルが生じた際に会社側が不利な立場に置かれる

実務上のリスク回避策として、同意取得のフローを採用プロセスに組み込み、同意書の保管を徹底することが基本です。

ITリテラシーが低い従業員や高齢の従業員については、電子署名の操作方法を事前に説明するサポートを行い、実質的な同意取得が確保されているかを確認することも大切です。

電子化後の書類保管・管理に関する法的要件と運用上の注意点

雇用契約書を電子化した後の書類保管・管理についても、法的要件を把握しておく必要があります。

保存期間のルール(労働基準法第109条)
労働者名簿・賃金台帳とともに、雇用契約に関する書類の保存期間が定められています。
労働者の退職・解雇・死亡から起算して3年間の保存が義務となっており、電子化した書類も対象です。
システムの廃止・乗り換えを行う際にもデータが失われないよう、バックアップ体制を整えておきましょう。

電子帳簿保存法への対応
電子文書として作成・保管する場合、以下の2点が求められます。

真実性の確保:改ざん防止措置が講じられていること
可視性の確保:検索・閲覧できる状態が維持されていること

選定した電子署名サービスやクラウドシステムがこれらの要件を満たしているかを、導入前に確認しておきましょう。

システム変更時のデータ移行
電子契約サービスを変更する際に、過去の契約書データが引き継げるかどうかを事前に確認し、移行方法と保管先を明確にしておくことが大切です。
また、退職者の契約書データへのアクセス権限管理も、情報セキュリティの観点から適切に設計する必要があります。

専門家への相談を検討すべきタイミングと活用法

電子化の法的要件や実務手順は複雑で、自社だけで対応しきれないと感じる場面も少なくありません。
状況によっては、専門家のサポートを活用したほうが確実です。

ここでは、相談を検討すべき基準と、専門家に依頼することで変わることを整理します。

こんな状況なら専門家への相談を検討すべきケース

以下のような状況に当てはまる場合は、専門家への相談を早めに検討してみてください。

  • 電子化に必要な要件(同意取得・書類形式・保管方法)が法的に正しいか自信がない
  • 電子署名サービスの選定にあたって、法的効力や電子帳簿保存法への対応を自社で判断できない
  • すでに電子化を進めているが、同意取得のプロセスが適切かどうか不安がある
  • 外国籍の社員や高齢の社員が多く、電子化への対応に個別サポートが必要
  • 採用管理・人事管理システムとの連携も含めた、入社手続き全体のデジタル化を進めたい
  • 就業規則の電子的交付や、その他の労務書類の電子化も合わせて進めたい

電子化の手続きが法令要件を満たしているかどうかは、専門的な知識がないと判断が難しい領域です。
自己判断で進めた結果、後から法令違反が判明するリスクを避けるためにも、初期段階での専門家への確認が有効です。

専門家に相談すると電子化対応がどう変わるか(支援範囲の要件整理)

社労士・弁護士・人事コンサルタントなどの専門家に相談することで、雇用契約の電子化対応が次のように変わります。

法令要件を満たした電子化フローを設計

労働条件通知書の電子交付要件・同意取得の方法・書類保管のルールを、最新の法令に基づいて正確に設計してもらえます。
法的リスクを最小化したうえで電子化を進めることができます。

電子署名サービス・クラウドシステムの選定サポート

自社の採用規模・予算・既存システムとの連携要件を踏まえた最適なサービスを提案してもらえます。
導入後の設定・運用方法のサポートまで対応してもらえる専門家であれば、スムーズな導入が期待できます。

同意取得フローと書類テンプレートを整備

電子化への同意書・説明文書・労働条件通知書のテンプレートを法令に準拠した形で作成してもらえるため、自社で一から作成する手間と誤りのリスクを大幅に削減できます。

入社手続き全体のデジタル化支援

雇用契約の電子化にとどまらず、入社誓約書・秘密保持契約・身元保証書・健康保険・雇用保険の資格取得手続きなど、入社手続き全体のデジタル化・効率化を包括的にサポートしてもらえます。

相談先・社労士・サービス選定時に確認しておきたい3つのポイント

雇用契約の電子化について相談する専門家やサービスを選ぶ際には、以下の3点を確認するとよいでしょう。

① 労働法・電子帳簿保存法・電子署名法の知識を持っているか

雇用契約の電子化は、労働基準法・電子署名法・電子帳簿保存法が複合的に関わる領域です。
これらの法令を横断的に理解した専門家でなければ、法的リスクを見落とした不完全な対応になる可能性があります。
得意分野と実績を具体的に確認しておきましょう。

② 電子契約サービスや人事管理システムの実務知識があるか

法令知識だけでなく、実際に電子契約サービスを活用した経験・導入支援の実績がある専門家であれば、現場で機能する実践的なアドバイスが期待できます。
机上の法的知識だけでなく、システムと実務の両面をカバーできる専門家を選ぶことが重要です。

③ 電子化後の継続フォローに対応できるか

雇用契約の電子化は導入して終わりではなく、法改正への対応・運用ルールの見直し・新しい雇用形態への対応など、継続的なメンテナンスが必要です。
初期の設計支援だけでなく、その後の継続サポートまで対応してもらえる体制があるかを確認することで、長期的に安心して電子化の運用を続けることができます。

まとめ|雇用契約の電子化は「法的要件の確認」から始める

雇用契約の電子化は、正しく進めれば業務効率化とコスト削減を同時に実現できる取り組みです。
導入前に押さえておきたいポイントを整理しておきましょう。

労働者の同意取得を必ず採用プロセスに組み込み、記録として保管する
電子署名の方式と電子帳簿保存法への対応状況を確認したうえでシステムを選定する
書類の保存期間・バックアップ体制・アクセス権限管理まで含めた運用設計を行う

自社だけでの対応が難しい場合は、専門家のサポートを活用することで、法令リスクを抑えながら確実に電子化を進めることができます。

雇用契約の電子化について、法的要件の確認から具体的な導入フローの設計まで、専門家と一緒に進めたい方は、ぜひ JNEXTグループ へのご相談をご検討ください
労務管理・人事制度設計からバックオフィス全体のデジタル化まで、貴社の実態に合わせた実践的なサポートを提供しています。

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この記事を書いた人

JNEXTグループ編集部は、税務・会計・労務・DXなどの複雑な情報を、初めての方にも分かりやすく届けることを目的に活動しています。税理士、社会保障監修のもと、正確で実務に役立つ内容を丁寧に解説し、読者の不安を少しでも減らせる記事づくりを心がけています。

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