
円能寺修二
株式会社JNEXTコンサルティング DX推進担当
DX推進担当。中小企業向けの業務DXやシステム導入支援を中心に、業務設計からツール選定、システム開発、運用定着まで一貫してサポート。現場課題に寄り添った実装力を強みとし、会計・バックオフィス領域を中心に業務効率化を支援している。
請求書の処理は、月末や月初に作業が集中しがちな業務です。
発行の準備と、受け取った請求書の確認が同じ時期に重なります。
自動化を検討する会社が増えている背景には、この偏りをならしたいという事情があるのでしょう。
ただし、システムを入れた後も手作業が残る例は珍しくありません。
理由は、請求書が経理の書類であると同時に、消費税の計算と保存の根拠になる書類だからです。
この記事では発行側と受領側に分けて自動化できる工程を示し、人が決める設定と保存の扱いまで整理します。
請求書の自動化を導入しても手作業が残る3つの場面
請求書の自動化は、どこで止まるかを先に知っておくと設計しやすくなります。
導入した会社が後から手を入れ直すのは、だいたい決まった場面です。
ここでは代表的な3つを取り上げます。
場面1|取引先ごとに請求書の届き方がそろっていない
請求書の届き方は、取引先の都合で決まります。
郵送で届くもの、メールにPDFが添付されるもの、取引先のサイトからダウンロードするもの。
この3種類が混ざっている場合、メールを受け取るだけの仕組みでは集約できません。
郵送の受領代行や、取引先サイトからの取得に対応したサービスを組み合わせる設計が必要です。
受領側の自動化は、届き先を1か所に寄せられるかどうかで成果が変わる業務です。
まず自社に届く経路を数え、どれが何割を占めるかを把握しましょう。
経路が偏っていれば、多い順に切り替えを打診する方法が現実的です。
場面2|読み取ったデータをそのまま会計に流せない
AI-OCRは、請求書の日付・金額・取引先名を読み取ってデータに変えます。
製品によっては、取引先の情報との照合や勘定科目の候補表示にも対応します。
ただし、どこまで自動で決まるかは製品と設定によって違うものです。
勘定科目や部門の割り振りは自社のルールで決まるため、最後の判断は人に残ります。
さらに、消費税の扱いは相手が適格請求書発行事業者かどうかで変わるものです。
登録番号の記載がない請求書は、原則として仕入税額控除の対象になりません。
読み取り結果を確認する工程は、自動化した後も残ると考えておきましょう。
場面3|自動で送った請求書の控えが手元に残らない
発行側で見落とされやすいのが、送った後の控えです。
適格請求書発行事業者には、交付した適格請求書の写しを保存する義務があります(消費税法57条の4第6項)。
メールで送信して終わりにすると、控えが残らない運用になりかねません。
ここまでの3場面は、いずれもツールの性能ではなく設計の問題です。
次の表に、原因と先に決めておくことをまとめます。
| 起きること | 原因 | 先に決めること |
|---|---|---|
| 受領の仕組みに集約できない | 取引先ごとに届き方が違う | どの経路に寄せるか、いつ打診するか |
| 読み取り後の修正が減らない | 科目・税区分は自社ルールで決まる | 誰がどの項目を確認するか |
| 発行した請求書の控えが残らない | 送信で処理が完結している | 写しをどこに、どの形式で残すか |
この3つを決めてからツールを比べると、機能の過不足を判断しやすくなります。
請求書の発行で自動化できる工程と、人が決める設定
請求書の発行は、受領側より自動化しやすい業務です。
自社のデータをもとに作るため、取引先の都合に左右される部分が少ないからです。
ただし、消費税に関わる設定だけは人が決める必要があります。
発行側は作成・送付・入金消込の3工程を自動化しやすい
発行業務のうち、繰り返しが多い工程から自動化すると効果が出やすくなります。
毎月同じ内容を請求する取引が多い会社ほど、削れる作業量も大きいでしょう。
自動化の対象になりやすい工程を挙げます。
- 請求書の作成:販売管理や契約のデータから金額を引き当て、書式に流し込む
- 送付:PDFをメールで送る、取引先の画面に公開する、郵送を代行に出す
- 入金消込:銀行の入出金データと請求データを照合し、入金済みの分に印を付ける
3つのうち、最初に手を付けやすいのは作成の工程です。
請求データの作り方が固まっていない段階で送付だけを自動にすると、誤った請求書がそのまま届くおそれがあります。
消費税額の端数処理は請求書1枚につき税率ごとに1回
自動化で設定を誤りやすいのが、消費税額の端数処理です。
適格請求書に記載する消費税額等には、1円未満の端数が出る場合があります。
その端数は1枚の適格請求書につき、税率ごとに1回だけ処理します(消費税法施行令70条の10)。
注意したいのは、商品ごとに計算する方法が認められていない点です。
明細の行ごとに消費税額を出して端数処理をし、その合計を記載する形は要件を満たしません。
切上げ・切捨て・四捨五入のどれを選ぶかは、自社で決めて構いません。
適格請求書には、次の6項目の記載が求められます(消費税法57条の4第1項)。
- 発行事業者の氏名または名称と登録番号
- 取引を行った年月日(一定期間分をまとめる場合はその期間)
- 取引の内容(軽減税率の対象ならその旨)
- 税率ごとに区分して合計した税抜価額または税込価額と、適用税率
- 税率ごとに区分した消費税額等
- 交付を受ける事業者の氏名または名称
記載事項に誤りがあった場合、発行側には修正した適格請求書を交付する義務があります(同条第4項)。
自動発行の仕組みを選ぶときは、修正版を出せるかどうかも確かめておきたいところです。
発行した請求書は控えの保存方法まで決めておく
交付した適格請求書の写し、および電子データで提供した分の記録は、保存が義務づけられています。
保存期間は7年間です(消費税法施行令70条の13第1項)。
数え始めるのは、交付または提供した日が属する課税期間の末日の翌日から2か月を経過した日です。
保存の形は1つに限られません。
主な保存方法は、次の3つです。
| 保存の形 | 補足 |
|---|---|
| 交付した請求書を複写したもの | もっとも基本的な形 |
| 記載事項が確認できる一覧表・明細表 | 複数の請求書をまとめた表でもよい |
| 自社が発行した請求書データ(データベース) | 取引情報のすべてが変更されるおそれのない合理的な方法で編集され、電子帳簿保存法の要件に従って保存されていること |
つまり発行側の設計では、送る仕組みと残す仕組みを別々に確認する必要があります。
送信履歴が残るだけの仕組みでは、写しの保存として足りない場合もあるでしょう。
請求書の受領で自動化できる工程と、確認が残る工程
受領側の請求書は、届く形も届く時期も自社では決められません。
そのため自動化の効果を決めるのは、受け取り方をどこまで整理できるかです。
ここでは自動化しやすい工程と、人の確認が残る工程を分けて見ていきます。
受領側は受け取り・データ化・承認の3工程から手を付ける
受領業務は、請求書が届いてから支払いまでの流れが長い業務です。
全体を一度に変えようとすると現場が混乱するため、前半の3工程から始める方法が無理のない進め方になります。
- 受け取り:専用のメールアドレスや受領サービスに届き先をまとめる
- データ化:AI-OCRや代行サービスで金額・日付・取引先を読み取る
- 承認:紙の回付をやめ、画面上で申請と承認を行う
承認から先の支払い工程については、支払業務を効率化する方法で詳しく解説しています。
会計システムへの取り込みは仕訳自動化の進め方もあわせてご覧ください。
読み取った結果は登録番号と税率を人が確かめる
データ化の精度が上がっても、確認を省ける工程と省けない工程があります。
金額や日付にも読み取り誤りは起こるため、元の請求書と見比べる工程が残るはずです。
読み取り結果から支払データを作っている場合、両者を照合しても同じ誤りには気づけません。
消費税の判断も、データの見た目だけでは決まらないものです。
確認が必要になるのは、次のような項目です。
- 登録番号の有無:記載がない請求書は、原則として仕入税額控除の対象外になる
- 税率の区分:軽減税率の対象品目が混ざっていないか
- 消費税額等の記載:税率ごとに区分された金額が書かれているか
- 請求内容の重複:再送された請求書を二重に登録していないか
これらの項目は、金額が小さいという理由だけで確認を省けるものではありません。
ただし、このあと説明する少額特例のように、請求書の保存がなくても控除を受けられる取引もあります。
何をどこまで確認するかは、制度と照らし合わせて決める話です。
なお、全件を人が目視する方法だけが選択肢ではありません。
システム側で記載事項や金額の整合を検証し、はじかれた分だけを人が見る形にすれば、負担は軽くなるでしょう。
令和8年10月から免税事業者等の仕入れは控除割合が70%に下がる
登録番号のない請求書が届いた場合、その仕入れは原則として仕入税額控除の対象外です。
ただし一定の期間は、仕入税額相当額の一定割合を控除できる経過措置があります(平成28年改正法附則52条・53条)。
割合は段階的に下がっていきます。
| 期間 | 控除できる割合 |
|---|---|
| 令和5年10月1日〜令和8年9月30日 | 仕入税額相当額の80% |
| 令和8年10月1日〜令和10年9月30日 | 仕入税額相当額の70% |
| 令和10年10月1日〜令和12年9月30日 | 仕入税額相当額の50% |
| 令和12年10月1日〜令和13年9月30日 | 仕入税額相当額の30% |
自動化した仕組みで気をつけたいのは、令和8年10月1日をまたぐ切り替えです。
税区分を80%のまま使い続けると、控除額を誤ったまま処理が進んでしまいます。
どちらの割合を使うかは、課税仕入れを行った日で決まる点も押さえておきましょう。
この経過措置の適用には、帳簿への記載も要件です。
国税庁は「80%控除対象」のように、経過措置の適用を受ける課税仕入れである旨を記載する方法を示しています。
摘要の文言をシステムに登録している会社は、割合の変更に合わせた見直しが必要です。
なお、この経過措置は令和8年度の税制改正で見直されました。
適用期限が2年延びた一方、令和8年10月1日以後に開始する課税期間からは上限が税込1億円に下がります。
1つの取引先からの対象となる課税仕入れのうち、その年または事業年度でこの額を超えた部分は対象外です。
税込1万円未満の仕入れは帳簿の保存だけで控除できる場合がある
受領側の作業量を減らす制度として、少額特例があります。
税込1万円未満の課税仕入れについては、一定の事項を記載した帳簿の保存だけで仕入税額控除を受けられる措置です。
相手が適格請求書発行事業者かどうかは問われません。
対象になるのは、基準期間の課税売上高が1億円以下、または特定期間の課税売上高が5,000万円以下の事業者です。
適用できる期間は、令和5年10月1日から令和11年9月30日までとなっています。
1万円未満かどうかの判定は、1回の取引の金額が基準です。
5,000円の商品と7,000円の商品を同時に購入した場合、合計12,000円となるため対象になりません。
少額の取引が多い会社ほど、この基準を自動化の設定に反映させる価値があるでしょう。
自動化した請求書の保存は受け取り方で扱いが分かれる
請求書の保存は、自動化の設計で最後まで残りやすい論点です。
同じ請求書でも、紙で届いたものとデータで届いたものでは適用される制度が違います。
ここを混ぜて考えると、必要のない作業が増えてしまうでしょう。
紙をなくす手順全般は経理のペーパーレス化完全ガイドで解説しています。
メールやクラウドで届いた請求書はデータのまま保存する
メールに添付されたPDFや、取引先のサイトからダウンロードした請求書は、電子取引のデータにあたります。
このデータは、電子帳簿保存法の要件に従って電子のまま保存する扱いです。
令和6年1月以降に行う電子取引では、印刷した書面だけを残す方法は認められていません。
要件どおりの保存が難しい事情がある場合には猶予措置がありますが、データそのものの保存は必要です。
紙に出して原本を捨てるという運用は選べないと考えてください。
紙で届いた請求書をスキャンして残すかは自社で選べる
紙で届いた請求書は、紙のまま保存しても差し支えありません。
スキャナ保存は選択できる制度であり、義務ではないためです。
スキャンして電子で残す場合は、入力の期限や解像度といった要件を満たす必要があります。
要件を満たして読み取った後、画像が紙と同じ内容かを確かめれば、原本はすぐに廃棄して構いません。
読み取った画像と紙を見比べ、折れ曲がりなどで欠けた部分がないかを確かめる作業です。
ただし入力の期限を過ぎた場合は、データとあわせて紙の保存も必要です。
スキャンした文書の保存でも、消費税の仕入税額控除は受けられます。
保管場所を減らしたい会社にとっては、検討する価値のある選択肢でしょう。
検索の要件は売上高5,000万円以下なら確保が不要になる
電子取引のデータは、検索できる状態にしておく必要があります。
求められるのは、次の3点です。
- 3項目での検索:取引年月日その他の日付・取引金額・取引先を条件に設定できる
- 範囲の指定:日付や金額について、範囲を指定して条件を設定できる
- 項目の組み合わせ:2つ以上の任意の項目を組み合わせて条件を設定できる
ただし、税務職員からのダウンロードの求めに応じられるようにしていれば、範囲の指定と組み合わせの要件は不要になります。
加えて、判定期間に係る基準期間の売上高が5,000万円以下の事業者であれば、検索機能の確保そのものが不要です。
自社が該当するかどうかで、選ぶべき仕組みも変わるでしょう。
| 受け取り方 | 適用される制度 | 保存の方法 | 紙の原本 |
|---|---|---|---|
| メール添付のPDF・サイトからのダウンロード | 電子取引のデータ保存 | 電子データのまま保存(義務) | ー |
| 郵送・手渡しの紙 | 保存の原則 | 紙のまま保存 | 保管が必要 |
| 郵送・手渡しの紙をスキャン | スキャナ保存(任意) | 要件を満たして電子で保存 | 確認後に廃棄可 |
自社に届く請求書をこの3行に振り分けると、必要な仕組みの範囲がはっきりします。
請求書の自動化を進める5つの手順
ここまでの内容をふまえ、着手の順番を整理します。
順番を守れば、ツールを入れ替える手戻りを避けられるでしょう。
まずは対象の部署や取引先を絞って試し、問題点を確かめてから広げる形が安全です。
発行した件数と受け取った件数、届き方の内訳を数えます。
どの取引先を先に切り替えるかを決めます。
端数処理・記載事項・検索の項目が要件に合っているかを見ます。
どのデータをどこに何年残すかを社内で決めて書き残します。
前の工程が固まってから、仕訳の自動化に進みます。
4番目の文書化は後回しにされがちですが、担当者が代わったときに効いてきます。
データの置き場所と保存年数を1枚にまとめておけば、引き継ぎの説明も短く済むはずです。
なお、連携先の会計ソフトを見直す場合は中小企業向け会計ソフトの選び方が参考になります。
請求書の自動化で専門家に相談したい場面
自社で判断しにくい論点は、早めに専門家へ渡すほうが安全です。
消費税の扱いを誤ると、後から修正申告が必要になる場合があります。
次のような場面が、相談の目安です。
- 売手が振込手数料を負担している取引がある
売上値引きとして処理するか、課税仕入れとして処理するかで必要な書類が変わる - 免税事業者等からの仕入れが多い
令和8年10月1日以後に開始する課税期間は、1つの取引先からの対象仕入れが税込1億円を超えた部分に経過措置を使えない - 複数の会社や事業所で運用ルールが分かれている
どこまでそろえるかの判断に、税務と実務の両面が絡む - 自動化と同時に経理の体制を見直したい
担当者の役割分担や外部委託の範囲まで含めた設計になる
これらは自社だけで結論を出すより、制度と実務の両方を見られる相手と一緒に整理したほうが早いでしょう。
経理全体の進め方は経理を効率化したい経営者が知るべき手順と注意点にまとめています。
まとめ|請求書の自動化は工程を分けて設定から決める
請求書の自動化は、発行と受領を分けて設計するのがコツです。
発行側は作成・送付・入金消込、受領側は受け取り・データ化・承認から着手すると進めやすくなります。
どちらの側でも、端数処理や保存の方法は人が決める設定として残ります。
効果を左右するのは、ツールの性能より前段の整理です。
届き方を数え、確認する項目を決め、保存のルールを文書にする。
この3つが済めば、自社に合うツールを選びやすく、導入後の手戻りも減らせます。
JNEXTグループには税理士法人と社会保険労務士法人があり、経理のデジタル化と税務の判断を同じ窓口で相談できます。
請求書の自動化に合わせて消費税の処理や保存のルールまで整えたい会社にも向いた体制です。
まだ自動化するかどうかを決めていない段階でも構いませんので、無料相談からお気軽にお声がけください。
【この記事の根拠にした一次情報】
- 消費税法(適格請求書の記載事項・交付義務・写しの保存)
- 消費税法施行令(消費税額等の端数処理・写しの保存期間)
- 電子帳簿保存法(電子取引の取引情報の保存・スキャナ保存)
- 電子帳簿保存法施行規則(保存の要件・検索機能の確保)
- 国税庁「消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A」(端数処理・写しの範囲・経過措置の割合)
- 国税庁「電子帳簿保存法関係」(一問一答【電子取引関係】【スキャナ保存関係】)
- 国税庁「少額特例の概要」(税込1万円未満の帳簿保存)
- 国税庁「少額な返還インボイスの交付義務免除の概要」(振込手数料相当額の扱い)
- 国税庁「令和8年度税制改正特集」(経過措置の割合の見直しと1億円の上限)

