電子帳簿保存法と人事システム|書類の整理と導入前に確認したいこと

電子帳簿保存法と人事システム|書類の整理と導入前に確認したいこと
この記事の監修者

平沢邦雄
JNEXT社会保険労務士法人 代表社員

企業の労務管理、社会保険手続き、人事制度設計などを中心に、数多くの法人・個人事業主を支援。実務に即したわかりやすい解説を得意とし、最新の法改正を踏まえた正確な情報提供を行っている。

紙で管理している労働条件通知書や給与明細、年末調整書類を、人事システムでまとめて電子化したいと考える企業もあるでしょう。

システムの比較ページに「電帳法対応」と書かれていると、紙の書類を電子化するうえで必要な法令対応も、まとめて進められるように見えます。
しかし、人事部門で扱う書類のすべてが、電子帳簿保存法の対象になるわけではありません。

労働条件通知書、給与明細、年末調整書類、各種申請書類、請求書データでは、確認すべき法令や保存ルールがそれぞれ異なります。
書類の区分を整理しないままシステムを導入すると、電子化した後に「この書類はどこに保存すべきか」「誰が閲覧できるのか」が曖昧になりがちです。

本記事では、電子帳簿保存法と人事システムの関係、対象書類の整理方法、導入前に整理しておきたい運用ルールの考え方を解説します。

目次

電子帳簿保存法と人事システムの関係

人事システムの導入を検討するとき、「電帳法対応かどうか」が選定基準のひとつになることがあります。
ただ、その前に押さえておきたいのは、電子帳簿保存法が何を対象にした制度なのかという点です。
制度の輪郭を理解しておくと、システム選定時の判断軸が明確になります。

電子帳簿保存法の対象は税務関係書類や電子取引データ

電子帳簿保存法は、国税関係帳簿書類や電子取引データの保存ルールを定める制度です。
国税庁は、この制度を次の3区分で整理しています。

  • 電子帳簿等保存: 会計ソフトなどで作成した帳簿・書類を電子データのまま保存する
  • スキャナ保存: 紙の書類をスキャンして電子データで保存する
  • 電子取引: メールやクラウドサービスで受け取った取引データを保存する

人事システムとの関係で特に意識したいのは「電子取引」の区分です。
外部ベンダーや社労士からメール添付で受け取った請求書、クラウド上で発行された利用料の明細などは、電子取引データとして保存要件を意識する必要があります。

人事労務書類は別の法令確認が必要な場合がある

労働条件通知書や雇用契約書、各種申請書類は、労働関係法令側のルールで電子化の可否が決まります
電子帳簿保存法の対象とは、切り分けて考えたい書類です。

書類ごとに確認すべき法令と要件が異なるため、代表的なものを整理しておきましょう。

書類根拠法令電子化の主な条件
労働条件通知書労働基準法労働者が希望した場合に限り電子明示可。保存・印刷できる形式で送ることが条件
給与明細所得税法一定の要件のもとで電子交付可。事前の承諾が必要
源泉徴収票所得税法同上。国税庁がQ&Aで承諾の考え方を案内

「電帳法対応システムを入れた=人事書類の電子化が完了」とはなりません。
書類ごとに根拠法令を確認したうえで、必要な要件を満たす運用を設計することが求められます。

「電帳法対応システム」だけでは運用が不十分になりやすい

電帳法対応と表示されたシステムを導入しても、運用設計が伴わなければ対応が完結しません
たとえば、次のような状態では要件を満たせないことがあります。

  • 保存はできているが、後から検索できる状態になっていない
  • 変更履歴の管理や、不正な修正を防ぐ社内ルールが整っていない
  • どの部署が、いつ、どの書類を保存するかが明確でない
  • メール添付で受け取ったデータを共有フォルダに置くだけで管理している

システムの機能と、実際の運用ルールが噛み合って初めて、電帳法対応として機能します。
選定と運用設計は、必ずセットで進める必要があります。

人事部門で扱う書類と確認すべきルールを整理する

人事システムを導入する前に、どの書類をどの法令に基づいて保存・交付するかを整理しておく必要があります。
労務書類、給与関連書類、電子取引データでは、確認すべき要件がそれぞれ異なるためです。

まずは、書類の種類ごとに確認したい項目を把握しておきましょう。

書類の種類主な確認事項
労働条件通知書労働者の希望、出力可能な方法、到達確認
給与明細・源泉徴収票電子交付の承諾、紙交付への対応
年末調整関連書類給与実務・税務実務との整合
各種申請書類申請・承認・保存履歴の管理
請求書などの電子取引データ検索性、改ざん防止、保存区分

労働条件通知書などの労務書類

労働条件通知書は、労働者が希望した場合に限り、電子メール等で明示できます。
この場合、労働者が受け取った内容を保存し、必要に応じて印刷できる形式で送る必要があります
雇用契約書など署名・捺印が必要な書類は、電子署名の活用も選択肢のひとつです。

労務書類の電子化では、「交付できるか」だけでなく、「到達確認をどう残すか」「書類を誰がどこで保管するか」まで運用として決めておく必要があります。

給与明細・源泉徴収票・年末調整関連書類

給与明細や源泉徴収票の電子交付は、一定の要件のもとで認められています。
電帳法の対象書類とは区分が異なるため、混同しないよう注意が必要です。

年末調整関連書類は、給与実務・税務実務との整合が求められます。
申告データの電子取り込みや書類出力に対応しているかは、給与システム側の機能とあわせて確認が必要です。

請求書や契約書などの電子取引データ

人事・給与システムの利用料請求書、外部研修費の請求データ、社労士やベンダーとの電子請求などは、電子取引データとして電帳法の保存要件を意識する必要があります。

電子取引データでは、真実性と可視性の確保が求められます。
具体的には、次の点が確認ポイントです。

  • 後から検索できる状態で保存されているか
  • 訂正・削除の履歴が管理されているか
  • 改ざん防止の措置が講じられているか

メール添付で受け取ったデータを共有フォルダに保存するだけでは、これらの要件を満たせないケースがあります。
保存方法と管理ルールをあわせて整備しておきましょう。

人事システム導入前に決めておきたい運用ルール

システムの機能を確認する前に、運用側で決めておくべきことがあります。
運用ルールが曖昧なまま導入を進めると、電子化した後に「どう使えばよいかわからない」状態になりやすくなります。

保存先とファイル管理のルール

書類の種類ごとに、保存先と命名ルールを決めておきます
担当者が変わっても迷わず運用できる状態を、導入前に設計しておくことが定着の条件になります。

スキャナ保存やスマートフォン撮影を活用する場合は、次の点も確認しておきましょう。

  • 画像の解像度が要件を満たしているか
  • 保存のタイミングとフローが明確になっているか
  • 読み取れない画像を残さないための確認工程があるか

検索しやすい項目の設定

電子取引データでは、後から必要な情報を探し出せることが求められます
書類の性質に応じて、次のような検索項目を設定しておくと実務での確認がスムーズになります。

書類の種類設定しておきたい検索項目
労務書類・申請書類氏名、日付、書類種別
請求書・電子取引データ取引先、金額、対象期間、書類種別

見返せない電子化は、紙運用と比べて利便性が変わらないばかりか、確認に時間がかかる場合もあります。

訂正・削除履歴と改ざん防止の仕組み

電子取引データでは、真実性を確保するための措置が求められます
訂正・削除履歴が残るシステムの利用や、訂正・削除ができない仕組み、事務処理規程の整備など、自社の運用に合う方法を確認しておきましょう。

  • システム側でログが自動記録される仕組みがあるか
  • 「誰がどの操作をしたか」を追跡できる体制になっているか

閲覧権限と外部共有の範囲

人事情報には、給与額・社会保険情報・家族構成など機微性の高い個人情報が含まれます
役割ごとにアクセス範囲を分けて設計することが必要です。

役割設定の考え方
人事担当者入力・編集・保存の操作権限
管理職担当部門の閲覧権限
経営者全体の閲覧権限(編集は制限)
外部専門家必要書類のみ限定共有

「全員が見られる状態」は、法令対応の面でも情報管理の面でも避けなければなりません。

給与・勤怠・会計との連携範囲

人事情報が給与計算へ、勤怠データが給与明細へ、給与データが会計仕訳へ流れる状態になると、導入後の二重入力や確認漏れを防ぎやすくなります。
どこまでを人事システムで完結させ、どこから給与・会計システムに引き継ぐかを、導入前に整理しておきましょう。

書類区分や運用設計の判断に迷ったときは専門家への相談を

制度の理解や書類の区分整理は、自社だけで進めると判断が難しい局面が出てきます。
次のような状況に当てはまる場合は、専門家への相談を視野に入れると整理が早くなります

対象書類の区分が判断しにくい場合

「この書類は電帳法の対象か、労働法令側の対応か」の判断に迷うケースは少なくありません。
書類ごとの保存根拠を一つひとつ確認する作業が必要になるため、次のような状況では特に注意が必要です。

  • 複数の書類が混在していて、保存根拠がばらばらになっている
  • 制度への理解が不十分なままシステムを選んでしまい、導入後に設定の見直しが発生している

紙と電子データが混在している場合

一部の書類は電子化されているが、他は紙のまま残っているという状況では、スキャン運用の設計や原本の取り扱いルールも含めて整理が必要です。

  • 電子化の範囲を広げるほど、移行期間中の二重管理リスクが高まる
  • 段階的に進める順番と優先度を整理すると、現場に定着しやすくなる

給与・労務・会計までまとめて見直したい場合

人事システムの導入を検討するなかで、次のような課題が同時に浮かび上がることがあります。

  • 給与計算が特定の担当者に依存している
  • 年末調整のたびに対応が重くなっている
  • 会計への反映に手作業が残っている

このような場合、人事システム単体の選定だけでは解決しにくい可能性があります。
人事・労務・給与・会計を横断して整理できる専門家に相談することで、業務全体の見直しを進めやすくなります。

まとめ|人事書類の電子化は、保存ルールの整理から始めよう

人事システムの導入で押さえておきたいのは、電帳法対応システムを選ぶことと、電帳法に対応した運用ができることは別だという点です。
書類ごとに確認すべき法令が異なり、システムの機能だけでは対応が完結しません。

導入前に整理しておきたい項目をまとめます。

  • 書類の区分: 電帳法対象か、労働法令側の対応かを書類ごとに確認する
  • 保存ルール: 保存先・命名ルール・検索項目を導入前に決める
  • 改ざん防止: 変更履歴の管理や、不正な修正を防ぐ社内ルールを整える
  • 権限管理: 閲覧・操作範囲を役割ごとに設定する
  • 連携範囲: 給与・勤怠・会計システムとのデータの流れを確認する

対象書類の区分整理から始めたい場合や、給与・労務・会計まで含めてバックオフィス全体を見直したい場合は、JNEXTグループへの相談をご検討ください
人事労務・給与DXの領域で、業務フローの整理から運用設計・システム導入まで、無料相談を受け付けています。

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この記事を書いた人

JNEXTグループ編集部は、税務・会計・労務・DXなどの複雑な情報を、初めての方にも分かりやすく届けることを目的に活動しています。税理士、社会保障監修のもと、正確で実務に役立つ内容を丁寧に解説し、読者の不安を少しでも減らせる記事づくりを心がけています。

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