
荻野岳雄
税理士法人JNEXT 代表社員
税理士/国税局OB。税理士法人JNEXT代表として中小企業の税務・経営支援に従事。DXを軸にした経営改善や税務戦略を得意とし、実務に基づく発信をYouTubeなどでも行っている。
経理業務に時間がかかる、月次決算が遅れる、経営数字をタイムリーに把握できない。
このような課題を抱えている企業は少なくありません。
近年は人手不足や法改正への対応に加え、経営環境の変化も激しくなっています。
そのため、従来の手作業中心の会計業務では、迅速な経営判断が難しくなりつつあります。
そこで注目されているのが「会計DX」です。
会計DXとは、デジタル技術を活用して会計業務を効率化し、経営に活かせる仕組みを構築する取り組みを指します。
システム導入に加え、業務フロー全体を見直し、生産性向上や意思決定の迅速化を目指す点が特徴です。
本記事では、会計DXの概要や必要性、導入によるメリット、具体的な進め方について税理士が分かりやすく解説します。
会計DXとは何か?なぜ今必要なのか
会計DXという言葉を耳にする機会は増えていますが、具体的な内容まで理解できている方は多くありません。
まずは会計DXの基本的な考え方と、企業に求められている背景を解説します。
会計DXの定義とデジタル化との違い
会計DXのDXは、「デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)」の略称です。
デジタル技術を活用して業務や組織を変革し、新たな価値を生み出す取り組みを指します。
一方で、デジタル化は既存業務を効率化するために、紙や手作業をデータ化する取り組みです。
デジタル化と会計DXの違いは、次の表のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| デジタル化 | 紙の情報をデータに置き換える |
| 会計DX | デジタル技術で業務を変革し、新たな価値を生み出す |
たとえば、紙の請求書をPDF化するだけであればデジタル化に該当します。
一方で、請求書データを会計システムへ自動連携し、AIが仕訳を提案する仕組みを構築する場合は会計DXといえます。
会計DXは業務効率化に加え、経営数字をリアルタイムで把握し、迅速な意思決定につなげる点が特徴です。
会計DXが求められる3つの背景
会計DXが急速に広がっている背景には、明確な理由があります。
① 人手不足の深刻化
多くの企業で人材不足が課題となっています。
経理担当者の採用が難しくなる中、限られた人数で業務を進めるには、業務効率化や自動化が欠かせません。
② 法制度の変化
近年は電子帳簿保存法やインボイス制度など、経理業務に関わる法改正が続いています。
2024年1月からは、電子取引で授受した請求書や領収書などのデータ保存が義務化されました。
法令に対応しながら業務負担を抑えるためにも、デジタルツールの活用が求められています。
③ 経営環境の変化スピード
市場環境や顧客ニーズの変化は年々速くなっています。
月次決算の完了までに時間がかかると、経営判断が後手に回る可能性があります。
経営数字をタイムリーに把握できる体制づくりは、企業の競争力向上にもつながります。
会計DXで実現できること
会計DXを導入することで、経理業務の効率化だけでなく、経営管理の質向上も期待できます。
会計DXによって得られる主なメリットはこちらです。
銀行口座やクレジットカードのデータを自動連携することで、入力作業や照合作業の負担を減らせます。
売上や経費の状況を日次で確認できるようになり、月末の締めを待たずに意思決定が可能です。
クラウド会計システムを活用すれば、場所を選ばずに業務を進められます。
テレワーク環境の整備にもつながるでしょう。
会計DXは、経理業務の効率化と経営判断の迅速化を両立するための取り組みです。
会計DXの具体的な導入内容
会計DXは、会計ソフトを導入するだけで実現できるものではありません。
クラウドサービスや自動化ツールを活用しながら、業務フロー全体を見直す必要があります。
ここでは、会計DXの中核となる4つの施策を解説します。
①クラウド会計システムの活用
会計DXの中核となるのが、クラウド会計システムの導入です。
従来のインストール型ソフトと異なり、インターネット経由で利用するため、場所を選ばず常に最新の状態で使用できます。
主なクラウド会計システムは以下のとおりです。
| システム名 | 特徴 |
|---|---|
| 弥生会計オンライン | 操作性が高く、中小企業に広く普及 |
| freee | 非経理担当者でも使いやすい |
| マネーフォワードクラウド会計 | 他サービスとの連携が豊富 |
多くのクラウド会計システムには、銀行口座やクレジットカードとの自動連携機能が搭載されています。
取引データを自動で取り込み、AIが勘定科目を提案するため、入力作業の負担軽減が期待できます。
ただし、導入時の初期設定には注意しましょう。
勘定科目や税区分の設定を誤ると、後から修正作業が発生する可能性があります。
スムーズに運用を開始するためにも、導入前に設定内容を十分確認しておくことが重要です。
②電子帳簿保存法への対応
会計DXを進めるうえで、電子帳簿保存法への対応も欠かせません。
2024年1月から、電子取引で授受した請求書や領収書などのデータ保存が義務化されています。
メールで受け取った請求書PDFや、ECサイトからダウンロードした領収書データは、電子データのまま保存しなければなりません。
適切なシステムを導入すれば、請求書や領収書の検索性が向上します。
税務調査時にも必要書類を提示しやすくなるでしょう。
代表的な対応方法は次のとおりです。
- クラウドストレージサービスの活用
- 請求書受領サービスの導入
これらのサービスには、タイムスタンプ機能や検索機能が備わっています。
法的要件への対応だけでなく、書類管理の効率化にも有効です。
一方で、保存要件を満たしていない場合は税務調査時に指摘を受ける可能性があります。
法令対応と業務効率化を両立できる環境づくりが重要です。
③AIとRPAによる自動化
会計DXをさらに進める方法として、AI(人工知能)やRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の活用があります。
AIによる業務効率化
AIは、過去の仕訳データを学習し、勘定科目の提案や請求書データの読み取りなどを行う技術です。
たとえば、領収書をスマートフォンで撮影するだけで、OCR機能が文字を認識し、経費精算データを自動で作成するサービスもあります。
RPAによる定型業務の自動化
RPAは、繰り返し発生する業務を自動化するソフトウェアです。
たとえば、次のような業務の自動化に活用されています。
- 売上データの集計
- 会計システムへの転記
- 各種レポートの作成
AIやRPAを活用することで、入力作業や集計作業の負担軽減が期待できます。
担当者は確認業務や分析業務に時間を使いやすくなり、生産性向上にもつながるでしょう。
④データ連携による業務効率化
会計DXの真価は、会計システムと他の業務システムを連携させることで発揮されます。
販売管理・給与計算・経費精算・POSなど、各システムが独立していると、データを手作業で転記しなければなりません。
これらをAPI連携やデータ連携ツールで統合することで、データが自動で流れる仕組みが構築できます。
連携によって実現できる主な効果は以下のとおりです。
・ECサイトと会計システムの連携
売上データが自動で取り込まれ、同時に在庫管理システムの在庫数も更新される
・給与計算システムと会計システムの連携
給与データが自動で会計に反映され、人件費の計上漏れや二重計上を防げる
会計DX導入時の注意点
会計DXには多くのメリットがありますが、導入方法を誤ると期待した効果を得られない場合があります。
ここでは、導入前に確認しておきたいポイントを解説します。
システム選定での失敗パターン
会計システムの選定では、機能の過不足に注意が必要です。
高機能なシステムを導入しても、使いこなせなければ十分な効果は得られません。
一方で、機能が少なすぎると事業の成長に対応できなくなる可能性があります。
システム選定時は、次のポイントを確認しましょう。
- 現在だけでなく将来の事業規模も考慮する
- 既存システムとの連携可否を確認する
- 顧問税理士とのデータ共有方法を確認する
無料トライアルを活用し、実際の業務で使いやすいか確認することも大切です。
初期コストと運用コストの見極め
会計DXを導入する際は、初期コストと運用コストの両方を確認する必要があります。
主な費用は以下のとおりです。
【初期コスト】
- システム導入費用
- 初期設定費用
- 従業員研修費用
【運用コスト】
- 月額利用料
- 保守費用
導入を検討する際は、費用だけで判断するのではなく、業務効率化による効果も含めて検討しましょう。
事前に費用対効果を試算しておくことで、自社に合った投資か判断しやすくなります。
従業員の抵抗への対処法
会計DXを進める上で壁となりやすいのが、従業員の変化への抵抗です。
長年同じ方法で業務を行ってきたベテラン社員ほど、新しいシステムへの移行に消極的になる傾向があります。
この問題には、以下の3つのアプローチが効果的です。
① 変化の目的を明確に伝える
「業務効率化により残業を減らす」「単純作業を減らして分析業務に時間を使えるようにする」など、従業員にとってのメリットを具体的に説明します。
② 段階的に導入する
全業務を一度にデジタル化する必要はありません。
まずは経費精算から始め、その後に請求書処理を電子化するなど、段階的に進めることで従業員の不安軽減につながります。
③ 十分な研修期間を設ける
新しいシステムを導入しても、操作方法が十分に浸透しなければ期待した効果は得られません。
導入前後には研修やマニュアル整備を行い、従業員が安心して利用できる環境を整えましょう。
導入の成否はシステムの性能だけでなく、従業員がスムーズに活用できるかどうかにも左右されます。
セキュリティリスクへの備え
クラウドシステムの利用には、情報漏洩のリスクが伴います。
会計データには企業の機密情報が含まれるため、セキュリティ対策は欠かせません。
まず基本となるのが、信頼できるベンダーのシステムを選ぶことです。
以下の項目を事前に確認しましょう。
- 第三者機関のセキュリティ認証を取得しているか
- データセンターの場所と管理体制はどうか
- データのバックアップ体制は整っているか
次に、アクセス権限の適切な設定も必要です。
全従業員が全データにアクセスできる状態は避け、職位や役割に応じて閲覧・編集権限を設定します。
さらに、以下の基本的な対策も徹底してください。
- 二段階認証の導入
- アカウント管理の徹底
- 退職者のアカウントの速やかな削除
セキュリティ対策は一度整えて終わりではなく、定期的な見直しが求められます。
会計DXで専門家のサポートが役立つ場面
会計DXはシステムを導入して終わりではありません。
システム選定や法令対応、運用体制の構築など、導入から運用までさまざまな場面で専門知識が求められます。
特に、次のような場面では税理士のサポートが役立ちます。
① システム選定
会計システムにはそれぞれ特徴があり、自社に適した製品を選ぶことが重要です。
業種や事業規模、既存システムとの連携状況などを踏まえながら検討する必要があります。
② 電子帳簿保存法への対応
電子帳簿保存法への対応では、保存要件を満たした運用体制を整えなければなりません。
システム選定や保存方法の検討では、税務面の知識が求められます。
③ 既存システムからの移行
システム移行時には、過去データの引継ぎや開始残高の設定などが発生します。
移行方法を誤ると会計データに影響するため、慎重な対応が必要です。
④ 導入後の運用体制づくり
会計DXの効果を高めるには、導入後の運用ルールを整備することも欠かせません。
担当者の役割分担やチェック体制を明確にすることで、スムーズな運用につながります。
⑤ 補助金や税制優遇の活用
会計DXでは、補助金や税制優遇制度を利用できる場合があります。
制度の適用要件や申請方法を事前に確認することで、導入コストを抑えられる可能性があります。
まとめ:会計DXで経理業務を効率化し、経営判断のスピードを高めよう
本記事では、会計DXの概要から導入の進め方、注意点までを解説しました。
最後に要点を振り返ります。
- クラウド会計やAIの活用により、業務効率化が期待できる
- システム連携によって会計情報の精度向上につながる
- 導入時はシステム選定やセキュリティ対策が重要になる
- 会計DXを成功させるには、自社に合った運用体制の構築が欠かせない
会計DXを成功させるには、自社の課題を整理したうえで、事業規模や業務内容に合った仕組みを構築することが重要です。
税理士法人JNEXTでは、システム選定から導入後の運用支援まで、会計DXを総合的にサポートしています。
会計業務の効率化やデジタル化をご検討中の方は、ぜひお気軽にご相談ください。

