
平沢邦雄
JNEXT社会保険労務士法人 代表社員
企業の労務管理、社会保険手続き、人事制度設計などを中心に、数多くの法人・個人事業主を支援。実務に即したわかりやすい解説を得意とし、最新の法改正を踏まえた正確な情報提供を行っている。
給与計算を外部へ任せたいと考えたとき、依頼先の候補に社労士が挙がります。
ただ、どこまで頼めるのかは意外とわかりにくいものです。
年末調整まで任せられるのか、社内には何が残るのか。
判断に必要な情報は、料金の相場ほどには見つかりません。
この記事では、社労士に依頼できる範囲と税理士との分担を工程ごとに整理しました。
依頼前に社内で決める準備や、見積もりで確認したい項目まで順に解説します。
給与計算そのものは社労士に依頼できる業務にあたる
給与計算は、社労士へ依頼できます。
資格による制限はかかっていません。
まずは、その根拠と、社労士でなければできない業務の線引きから確認しましょう。
給与計算の代行を社労士に頼んでも違法にはならない
給与計算とは、従業員へ支払う賃金の額を確定させる一連の作業を指します。
勤怠の集計に始まり、基本給や手当を加え、社会保険料や税金を差し引いて手取り額を出すまでが含まれます。
この作業自体に、資格による制限はありません。
社会保険労務士法にも税理士法にも、給与計算の代行を禁じる定めは置かれていないためです。
会社は、社労士・税理士・代行会社のいずれにも依頼できます。
資格が関わってくるのは、給与計算に付随する手続きの部分です。
社労士だけができる業務は社会保険労務士法で決まっている
社会保険労務士法は、社労士でない人が報酬を得て行ってはならない業務を定めています(第27条)。
対象は第2条第1項第1号から第2号までの事務で、給与計算に関わるのは次の4つです。
- 労働社会保険諸法令にもとづく申請書や届出書を作成する
- 作成した書類を行政機関へ提出する手続きを代わりに行う
- 行政機関の調査や処分について、会社に代わって主張や陳述をする
- 賃金台帳や労働者名簿など、法令にもとづく帳簿書類を作成する
これらに違反した場合の罰則も定められています(第32条の2)。
給与計算だけを請け負う代行会社もありますが、社会保険の手続きまで任せられるとは限りません。
4つの事務を外へ出すのであれば、依頼先は原則として社労士です。
なお、税理士が税務の業務に付随して行う場合など、政令で定める例外もあります。
社労士と税理士で給与計算の担当が分かれる境目
給与計算まわりの業務は、社労士と税理士のどちらか一方に寄せられるとは限りません。
工程によって、頼める相手が変わるためです。
まずは全体像を表で確かめてみましょう。
| 工程 | 依頼できる相手 |
|---|---|
| 勤怠の集計・確認 | 社労士・税理士・代行会社のいずれも可 |
| 基本給・手当・控除の計算 | 社労士・税理士・代行会社のいずれも可 |
| 社会保険料・雇用保険料の計算 | 社労士・税理士・代行会社のいずれも可 |
| 給与明細の作成・交付 | 社労士・税理士・代行会社のいずれも可 |
| 毎月の源泉徴収税額の計算 | 社労士・税理士・代行会社のいずれも可 |
| 社会保険・労働保険の手続き | 社労士 |
| 賃金台帳・労働者名簿の作成 | 社労士 |
| 年末調整の事務と税務書類の作成 | 税理士 |
表のとおり、多くの工程は依頼先を会社が選べます。
担当が決まっているのは、次の3つです。
順に見ていきましょう。
社会保険と労働保険の手続きは社労士に依頼する
従業員の入社や退社があると、社会保険と雇用保険の資格取得・喪失の届出が発生します。
毎年6月から7月にかけては、労働保険の年度更新と社会保険の算定基礎届もあり、いずれも7月10日が期限です。
これらの書類を会社に代わって作成し、行政機関へ提出できるのは社労士に限られます。
給与計算と手続きは同じ情報を使うため、担当が分かれると同じ資料を二度渡す手間が生まれるのです。
年末調整の事務は税理士に依頼する
年末調整は、1年間の源泉徴収税額と年税額を精算する手続きです。
この年末調整の事務は、税理士の業務にあたるとされています。
日本税理士会連合会と全国社会保険労務士会連合会の間でも、社労士が行えば税理士法第52条に触れると整理されました。
源泉徴収票や法定調書合計表の作成も、同じく税理士の業務です(税理士法第2条第1項第2号)。
給与計算を社労士へ任せている会社では、給与と社会保険のデータを税理士へ渡す形で分担します。
賃金台帳の作成代行も社労士の業務に含まれる
会社には、事業場ごとに賃金台帳を作成して備え付ける義務があります(労働基準法第108条)。
この賃金台帳は、社会保険労務士法にいう「労働社会保険諸法令にもとづく帳簿書類」にあたります。
つまり、報酬を得て賃金台帳の作成を代行できるのは社労士だけです。
自社の従業員が自社の台帳を作る場合、この制限はかかりません。
外注先を選ぶときは、賃金台帳をどちらが作るのかまで確かめておくと安全でしょう。
給与計算を社労士に依頼して会社が得られる3つの変化
社労士へ依頼すると、担当者の作業が減るだけでは終わりません。
法改正への対応や、手続きの窓口にも変化が生まれます。
実務で効いてくる3つを見ていきましょう。
法改正のたびに自社で調べ直す作業がなくなる
給与計算には、社会保険料率の改定や税制の変更が毎年のように影響します。
改正の内容を調べ、自社の計算へ反映する作業は、担当者にとって負担の重い工程です。
社労士へ依頼すれば、契約の範囲に応じて調査と反映を任せられます。
制度の変更を見落としたまま計算を続けるリスクも下がるでしょう。
社会保険の手続きと給与計算が同じ窓口でつながる
入退社があった月は、給与計算と社会保険の手続きが同時に動きます。
両者を別々の相手へ頼むと、同じ情報を二度伝える必要が出てきます。
社労士へまとめて依頼した場合、窓口はひとつです。
伝え漏れによる保険料の計算誤りも起こりにくくなります。
担当者ひとりに集中していた業務を外へ出せる
給与計算は、社内で担当者がひとりに固定されやすい業務です。
代わりに処理できる人がいなければ、社長自身が計算に入るほかありません。
外へ出せる工程を切り分ければ、この状態から抜け出せます。
たとえば次のような工程です。
- 社会保険料や雇用保険料の計算
- 入退社にともなう資格取得・喪失の手続き
- 毎年の労働保険の年度更新
- 社会保険の算定基礎届の作成と提出
いずれも専門知識が必要な一方で、社内に知見のたまりにくい工程。
外へ出す優先度の高い部分です。
社内で抱え続けた場合の影響は、給与計算の属人化を解消する方法の記事で詳しく解説しています。
社労士に給与計算を依頼しても社内に残る3つの仕事
給与計算を外へ出しても、会社の仕事がすべてなくなるわけではありません。
社内に残る部分をあいまいにしたまま契約すると、依頼したあとでつまずきます。
残る仕事を3つに整理しました。
勤怠の締めと入退社の連絡は社内の仕事として残る
社労士が計算を始めるには、確定した勤怠データが要ります。
打刻漏れの確認や残業申請の締めは、会社の側で終わらせておく作業です。
入社や退社の連絡も同じ扱いになります。
ここが遅れると、支給日までの日程がそのまま圧迫されてしまいます。
手当の支給ルールを決めるのは会社の役割
住宅手当や資格手当をいくら支給するかは、会社が決める事項です。
社労士は決められたルールにしたがって計算しますが、ルールそのものを代わりに決めるわけではありません。
規程に書かれていない運用が残っていると、依頼先から確認を求められます。
外注は、自社のルールを文書へ落とす機会でもあるのです。
手当や等級の設計は、賃金テーブルの作り方の記事で解説しています。
支給額の最終確認と振込は会社が責任を持つ
計算結果を確かめ、支給を確定させるのは会社です。
金額の誤りが従業員へ影響したとき、説明する立場にあるのも会社になります。
振込データの実行についても、通常は会社の側に残ります。
任せきりにせず、前月との差額を見る確認の工程だけは社内に置いておきましょう。
社内に残る仕事を回すには、毎月決まった情報を社労士へ渡す必要があります。
渡す中身は、おおむね次のとおりです。
- 勤怠の締めが終わったデータ
- 入社・退社した従業員の情報
- 住所や扶養家族の変更届
- 欠勤や遅刻など控除の対象になる記録
- 賞与の支給額と支給日
この受け渡しが滞ると、外注していても支給日に間に合いません。
社内の締め日を先に固めておくと、毎月の流れが安定します。
給与計算を社労士に依頼する前に社内で決める5つの準備
依頼してから決めようとすると、やり取りが往復するうちに支給日が近づきます。
契約の前に社内で固めておけば、初月から落ち着いて回せるはずです。
次の5つを順に進めましょう。
先ほどの表を使い、工程ごとに担当を書き分けます。
ここが決まらないと、見積もりも取れません。
規程に書かれていない手当や控除がないかを確かめます。
ずれが見つかった場合、直すかどうかは会社の判断です。
勤怠の締め日、資料を渡す日、計算結果を受け取る日を決めます。
支給日から逆算すると、無理のない日程が見えてくるでしょう。
データの形式や受け渡しの方法を決めておきます。
毎月同じ形にそろえておけば、確認の手間が減るはずです。
給与情報は機密性が高いため、扱う範囲と担当者を限ります。
社内の窓口も一本化しておきましょう。
5つが固まれば、複数の事務所へ同じ条件で見積もりを依頼できます。
比較の土台をつくる工程でもあるのです。
そのうえで、委託を始める月にだけ必要になる作業もあります。
切り替えの月につまずかないよう、次の点を先に取り決めておきましょう。
- 従業員データと賃金台帳の引き渡し方法
- 住民税の特別徴収税額通知と社会保険の決定通知の共有
- 初月は社内でも同じ計算を行い、結果を突き合わせる
- 誤りが見つかったときの修正期限と責任の分担
- 契約が終わるときのデータ返却の方法
初月の突き合わせまで決めておけば、切り替えの月も落ち着いて進められます。
外注全体の進め方は、クラウドBPOで業務改善を進める方法の記事もあわせてご覧ください。
給与計算を依頼する社労士の選び方と料金の見方
社労士事務所は、得意な分野も料金の決め方もそれぞれです。
金額だけを並べて比べると、あとから追加費用が出て判断を誤ります。
確認したい視点は3つです。
料金は基本料金と従業員数あたりの単価に分けて確認する
給与計算の料金は、基本料金と従業員1人あたりの単価を組み合わせた形が多く見られます。
ここで確かめたいのは、金額そのものより「何によって金額が変わるか」です。
従業員数が増えたとき、賞与を計算する月、年末調整の時期。
これらで料金が動く事務所は珍しくありません。
社労士の報酬について、法律に基準は定められていません。
各事務所が自由に決めているため、相場を探すより自社の条件で見積もりを取るほうが確実です。
年末調整や税務までまとめて頼めるかを確認する
先に触れたとおり、年末調整の事務は税理士の業務です。
給与計算を社労士へ依頼すると、年末の時期だけ別の窓口が必要になる場合があります。
依頼先を選ぶ段階で、税理士と連携しているかどうかを確かめておきましょう。
税理士法人と社会保険労務士法人が同じグループにあれば、窓口をまとめやすくなります。
情報の受け渡し方法と管理体制を確認する
給与情報は、社内でも扱う人を限る種類の情報です。
外部へ渡す以上、受け渡しの方法と保管の体制は必ず確かめましょう。
クラウドを使うのか、メールに添付するのか。
担当者が不在のときに誰が対応するのかも、決めておきたい部分でしょう。
見積もりを取る段階では、次の項目をそろえて聞いておくと比較しやすくなります。
- 基本料金に含まれる工程の範囲
- 従業員数が増えたときの料金の変わり方
- 賞与計算や年末調整が別料金かどうか
- 資料の受け渡し方法と締切
- 担当者の連絡先と不在時の対応
同じ項目で複数の事務所へ聞けば、金額の差がどこから来るのかも見えてきます。
依頼先を選ぶ視点は、経理代行を依頼する前の確認事項の記事でも整理しています。
社労士に給与計算を任せる前に専門家へ相談したい3つの場面
ここまでの準備は、社内で進められる内容です。
一方で、専門知識がなければ判断しにくい場面もあります。
次の状況にあてはまる会社は、依頼先を決める前に相談しておくと安心です。
- 就業規則や賃金規程と、実際の支給内容が食い違っている
- 割増賃金の計算方法に不安が残っている
- 社会保険の手続きと年末調整の両方を外へ出したい
いずれも、外注してから直そうとすると手戻りが大きくなる部分です。
規程のずれについては、依頼先が最初に指摘する項目でもあります。
なお、外注ではなく給与システムの見直しで解決できる場合もあるため、給与システムの選び方の記事もあわせて検討してみてください。
まとめ:社労士と税理士の分担を決めてから給与計算を依頼する
給与計算自体は社労士へ依頼できます。
ただし、関連業務のすべてを任せられるわけではありません。
社会・労働保険の手続きや賃金台帳の作成は、社労士の領域です。
年末調整に伴う税務書類の作成は、税理士が担います。
外注前に、任せる工程と社内に残す工程を整理する必要があります。
勤怠の締めや手当ルールの決定、支給額の最終確認は会社側の仕事です。
担当者と期限まで決めておけば、外注後の連携もスムーズになるでしょう。
JNEXTグループでは、税理士と社労士が連携して対応しています。
給与計算から社会保険の手続き、年末調整まで相談可能です。
依頼範囲が決まっていない段階でも、まずは無料相談をご利用ください。

